先日、チロルチョコ株式会社の
チロルチョコについて触れた。チロルチョコを作っているから社名もチロルチョコ。実にわかりやすい話だ。しかしこの会社は別にチロルチョコだけを専一的に作っているわけではない。ちゃんと他のお菓子も作っている。たとえば「ごえんがあるよ」なども、実はこの会社の製品なのである。
「ごえんがあるよ」と言われてもピンとこないな。いや、なんか婚活や受験に良さそうな名前だとは思うけど。そう思われた方もいるかもしれない。しかしそういう人も「5円チョコ」と聞けば、ああ、あれか、と得心が行くのではなかろうか。たぶん、現時点(2019年)で30歳以上の方なら、ほとんどがその通称にピンとくるはずである。
「5円チョコ」とは何か。
文字通り、5円玉の形をしたチョコレートである。その価格も5円と、破格の値段だった。子供の頃、近所のお店でよくねだって買ってもらった。そういう思い出を持つ人は、決して少なくないと思う。なにしろ値段が5円なので親にねだりやすい。なんなら、自分のポケットにつっこんである小銭で買えなくもない。それでちょっと幸せな気持ちになれる。そういうお菓子は子供にとって実にありがたい存在だった。
「5円チョコ」、もとい「ごえんがあるよ」が売り出されたのは1984年。当時、チロルチョコは「10円で買えるチョコ」としてすでに人気を博していた。善哉。じゃあさらに安い、5円で買えるチョコがあったっていいじゃないか。そういった(安直と言えば安直な)アイデアで「ごえんがあるよ」は売り出されることになった。
形状も、値段そのまま5円。シンプルでわかりやすい。しかしこれは(当然と言えば当然ながら)採算割れの商品である。この値段で利潤を出そうと思えば薄利多売、つまり大量に生産して大量に売るしかない。
チロルチョコは毎年およそ数億個が売れている。だから採算が取れている。しかしチロルチョコの半額となると、単純に計算して、チロルチョコの倍は毎年売れないと、(少なくともチロルチョコ並には)採算が取れないということになる。さすがに無理があるだろう。それは素人でもなんとなくわかる。
かくして「ごえんがあるよ」の単品売りは2007年を以って終了した。あ、そうなんだ、どうりで最近店で見かけないと思った。そう惜しむ人もいるかもしれない。私としては、逆によくそこまで頑張ってくれたな、凄いな、と感心するばかりである。
単品売りはないということは、何個かセットになった「まとめ売り」でしか、現在の所は「ごえんがあるよ」を買えないことを意味する。それは営利企業の商売としては止むを得ないかもしれない。でも個人的には、単品だから「5円チョコ」の意義があるんじゃないか、と(勝手ながら)思う。まとめて買うのはなんか違う気がするというか。とはいえ、それ以外に買う方法がないなら、仕方ないわけだけど。
子供の頃、近所に銭湯があった。その向かいに駄菓子屋があって、そこでよく「5円チョコ」を父に買ってもらった記憶がある。そういう暖かい記憶って、歳を重ねるほどに大事になってくるように思う。もちろん私事である。しかし無数の人の無数の私事の中に「5円チョコ」はあったはずで、それを「ごえんがある」と言うのではないかと愚考するのだが、さて、皆さんはどう思われるだろうか。