前の記事では、カルビーのポテトチップスについてああだこうだと論った。結論の部分は、メーカーに対して苦言を呈したものになっている。同社の創業者にとって、同社のポテトチップスは「夢」を託した大事な商品であった。でも創業者亡き後に同社がその「夢の商品」に対して採ってきた方策は、必ずしも創業者の志に即したものと言えないのではないか。簡単に言えば、そう難じた次第である。
前言撤回のようになるが、この稿では「本当にそうなのだろうか? 創業者の『夢』として相応しい形で、ポテトチップスは今でも製造、販売されているのではあるまいか」という異議を述べたい。ただしここで取り上げるのは、同社が七〇年代当初から全国展開している、いわゆる通常版のポテトチップスではない(それだと前の記事と同じになってしまう)。阪急百貨店とコラボレートして生まれた「グランカルビー」である。

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カルビーとはどういう会社か? 簡潔に言えば、戦前より穀粉の製造、販売を営んでいたごく小規模の個人商店をベースに、一九五五年に広島で創業された製菓会社である。一九七三年に本社を広島から首都=東京へ移転し、七五年にポテトチップスを販売開始。日本がエコノミー・バブルを体現する八〇年代、同社のポテトチップスは、国内のポテトチップス市場の七割超のシェアを獲得するほど、人口に膾炙した。
自社製のポテトチップスが国民的な人気を博したのを見届け安心したのか、同社の創業者は八七年に社長の椅子を後進に譲り、二十一世紀に入って間もない二〇〇三年に亡くなる。それはそれで仕方ないことだが、この〇〇年代あたりから、日本経済はちょっとした変化を見せる。
九〇年代序盤、エコノミー・バブルは終わった。巷には「バブル崩壊」という言葉が広く共有され、国内景気は悪くなるばかりだった。労働者を満足に雇用できない会社が増え、「就職氷河期」が続き、主要な金融機関は再編あるいは破綻。二十世紀を通して成長してきた日本経済は右肩下がりに転じて、政界も財界も有効な景気浮揚策は打ち出せないまま時間を無為に過ごすだけだった。それが「世紀末」で、二十一世紀はその上にやってくる。
二十一世紀になっても、景気はやはり悪かった。日経平均株価は平気で一万円台を割り、失業率や自殺率は高水準をキープ。ところがこの〇〇年代になると経済は、実体経済と金融経済という二次元に分けて語られるようになる。
実際の世間に即した実体経済と、金融市場という仮想的市場の数字を軸に語られる金融経済。前者は相変わらず不景気だが、後者では景気回復の様相が見られたのが〇〇年代半ばで、つまりこの頃になると「まともに働き真面目に納税している人」は概して不況に苦しむけれども、不動産や株など「ヴァーチャルな数字」の差異を利用して儲けた企業や個人も一部にいたということである。それゆえか、当時の景況は「格差景気」と揶揄されたりもした。
実際の世間は不景気なのだから、正直に値上げなんかしたら顧客に見放されるというオブセッションがあったのかもしれない。カルビーはこの〇〇年代の後半、売り値を下げずに内容量を減らして売る、いわゆる「ステルス値上げ」を自社のポテトチップスに施す。一方、景気がいいという人も、数としては少ないながら存在するのだから、そういう「選ばれし少数民=The selected few」向けの商品を打ち出すのもいいのではないか━━と考えたかどうかは知らないが、同社は二〇一四年四月、高級なポテトチップス「グランカルビー」の販売を開始した。

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グランカルビーのコンセプトは「ギフトとして贈りたくなるポテトチップス」だという。だから値もそこそこ張るし、材料や製法にも凝っている。販売開始の二〇一四年時点で、グランカルビーは一箱あたり税込五四〇円もした(内容量六〇グラム)。二〇二六年五月現在、グランカルビーは一袋あたり五~七百円台といったところで、なるほど、これは「自分用に買うにはちと高いけど、手土産や贈り物には妥当かも」という価格帯だろう。また、現在同社の通常のポテトチップスは、アメリカ産じゃがいもを一部材料に使っているが、グランカルビーの材料となるじゃがいもは軒並み国産だという。
「ふうん、そういうポテチがあるんだ。でも見かけたことないな」と思う人も多いはずである。というのも、このグランカルビーは大阪の阪急うめだ本店でしか販売していないのである。あとは
阪急百貨店のオンライン・ショップなどネット通販で手に入れるか、期間限定の出張販売先で買うしかない。私は大阪在住なので入手はそんなに難しくないが、北海道や東北、九州など遠方の人にとっては、「大阪のお土産」という位置づけになるだろうか。

阪急百貨店うめだ本店
File: Umeda Hankyu Department Store.JPG
from the Japanese Wikipedia
(撮影:2013年1月1日)
日本の実体経済は相変わらず不景気で、そうなるとカルビーとしても真っ当な形でポテトチップスを製造、販売し続けるのは難しいのだろう。少なくとも、二十世紀後半のように全国一律でそれをするなどは、もう非現実的な話なのだと思う。間尺に合わないというか。だから「真っ当なポテトチップス」というありようはグランカルビーに託し、その他のポテトチップスはステルス値上げでイメージ失墜もやむなしと判断したのかもしれない。