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金魚メシ
岐阜県の郷土料理で考える「食の安全」

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「その材料を使っていないのだけど、見た目がそれっぽいからそういう名前になった料理」というのがある。青森県のいちご煮などは、その好個の例であろう。今回の金魚メシもそれにあたる。よもや金魚を食べるわけではあるまい。そう見込む人がほとんどのはずで、もちろんそのとおり。実際に金魚が食材として使われているなどはない。

金魚メシは、端的に言えば炊き込みご飯である。炊き込みご飯に用いるニンジンが、金魚のように見える。それで金魚メシと呼ばれるようになった。ウソかホントかは知らないが、そういうことらしい。炊き込みご飯は極めてノーマルな炊き込みご飯で、特に変わったレシピで作るなどはないという。



岐阜県の郷土料理「金魚メシ」
File: Kingyomeshi, Local food in Kakamigahara.jpg
from the Japanese Wikipedia
(撮影:2017年9月30日)

分からないな、それのどこが郷土料理なんだ。そう訝る向きもあろう。炊き込みご飯なんて何処でだって食えるじゃないか。ところが、金魚メシの眼目は、ニンジンである。でなければそういう名前にはならない。そして、岐阜県の特産物にはニンジンがある。各務原(かかみがはら)で作られる各務原ニンジンである。地元の特産品を主役に据えて作る炊き込みご飯だから、郷土料理だというわけ。

ここで、サブタイトルにあるように話は「食の安全」である。つまり、各務原ニンジンの安全性について。

各務原は、何百年もニンジンを栽培してきた伝統があるという土地ではない。明治の末期から昭和中期にかけて、栽培が盛んになった。当時は「産めよ殖やせよ」の人口増の時代である。人口が増えれば、食糧もそのぶん増産されねばならない。さもないと、餓死者が多数出てしまう。今日のように食糧を輸入で補えるほど、円が強い時代でもない。そういう事情から、ニンジン栽培が盛んになっていった。そう考えて、あながち間違いではなかろう。

しかし、同じ作物をハイペースで作り続けていると、その土地は痩せ細って、不毛の地になってしまう。いわゆる「連作障害」である。畑や田んぼというのは、基本的に「人間にとって都合がいいように自然を改造したもの」で、言うなれば自然破壊の産物でしかない。田園風景を見て大自然を感じるというのは本来的には倒錯なのである。

中国が最近、海外の土地を買収しまくっている。そのうちのいくつかは、農場として利用されていると仄聞する。中国本土の多くは、無理なペースで作物を育てたり、過度に農薬をばら撒いたりして、土壌汚染が深刻化し、もう農業に向かない土地になってしまった。そこで海外の農地が必要になる。十数億の人口を養おうとすれば、何を置いても食糧が要るからである。

話を戻すと、各務原でも連作障害が問題になった。だから近年では、化学肥料や農薬の使用を抑えての栽培を心がけているという。

それの何が問題なのか? 私は無農薬なら問題はないと思う。しかし、無農薬栽培は、農家に大変な手間を強いる。小規模農業ならともかく、ビジネスとして成立するだけの大量生産を目的とする農家には、かなり厳しかろう。だから各務原も、農薬の使用量を抑える「減農薬」を掲げている。

農薬とは、本質的には「農家の手間を軽減するためのもの」である。慢性的な人手不足が言われる農家で、農薬の使用量を減らしたら、農家の手間が増え、農家のブラック企業化が進むだけである。でも農薬の使用量は減らせという。さてどうするか? まぁ高確率で、少量でも強い効果を持つ農薬を使うことになるだろう。そして、当然ながら強い農薬は自然にも人体にも優しくはない。それが「減農薬」の意味する所である。



各務原市民公園(芝広場)
File: Kakamigahara public park-2.JPG
from the Japanese Wikipedia
(撮影:2007年12月5日)

前世紀末、ヨーロッパやアメリカで、ミツバチが一斉に消える事件があった。調べてみると、ネオニコチノイド系の農薬のせいである可能性が高いことが判明した。ネオニコチノイド系の農薬は、植物に吸収され、その花粉や蜜を吸収したミツバチは、方向感覚が麻痺してしまう。それで大量のミツバチが、巣に帰れず死に絶えた。この事件に加え、ネオニコチノイド系の農薬は哺乳類の脳にも悪影響があると唱える人が増えたこともあって、現在、EUではネオニコチノイド系の農薬は全面的に使用禁止であるが、日本ではまだ使える。

減農薬栽培の各務原ニンジンは安全なのか。実相は農家によって異なるはずである。軽々に結論は言えない。ただ、栽培を続ける限り、土壌汚染が進むことはあっても、マシになることはないのである。





 

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