アイスクリームの工業生産におけるパイオニアというと、皆さんどこかご存知でしょうか? こんな訊ねかたもなんかヤラしいですが、森永でもグリコでもありませんよ。正解は明治です。1921年、極東煉乳の沖田佐一が米国より輸入したフリーザーを用いて、日本で初めてアイスクリームの工業生産をスタートさせました。この極東煉乳こそ、のちの明治乳業というわけです。
そんな明治のアイスの代表作となると、やはりこれをおいて他にはないのではないでしょうか。1994年に発売開始された「エッセルスーパーカップ」、その中でも「超バニラ」。バニラ・アイスの定番として、スーパー、コンビニエンス・ストア、ドラッグ・ストアなどで広くお馴染みのことと思います。
この「エッセルスーパーカップ」(以下、エッセル)が生まれるまでに何があったか。そもそも明治には「アイスクリームの芸術品」とのコピーが話題となった高級アイス、米国のレディーボーデンのアイスを、1990年の提携解消に至るまで手掛けていた履歴があります。つまり高級アイスクリームに関するノウハウが、「エッセル」誕生前夜にはすでに蓄積されていたわけですね。
しかしそれまでの高級アイスをそのまま提供したというのでは、移り気な消費者には新鮮味をアピールできません。そこで「エッセル」では、種類別名称がアイスクリームではなくラクトアイスになっても明治乳業(当時)らしい高級感(お得感)や美味しさを提供できるか、という挑戦がおこなわれました。
ここで種類別名称について軽く触れます。アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓と全部で4つあるのですが、アイスクリームは乳固形分、乳脂肪分が最も多く含まれます。対するラクトアイスは、乳固形分3%以上という、概してさっぱりした味わいのものを指します。
要するに、あまり乳脂肪分を使わないラクトアイスというフィールドでアイスクリームの美味しさを追求したわけです。そこでは、アイスクリームの食感を左右するとされる空気含有量を30%に抑えるなど(標準は60%以上とされる)、長年かけて蓄積された高級アイス作りのノウハウが活かされたと聞きます。
これにより、コストカットとボリュームUP(当時の100円カップアイスは150mlが標準だったが、「エッセル」は200ml)に成功。発売後9年で累計10億個を売り上げた大ヒット商品となりました。2003年以降は、抹茶やチョコクッキーなどの別フレーバーも発売されていますが、その中でも「超バニラ」は、やはり今でもバニラアイスの定番とされるほど、確たる地位を築いた代表格と言えるのではないでしょうか。