先生(以下、S):こんにちは。今回もアシスタント(=A)と一緒に、福井県で造られている「未来」という味噌について、ああでもないこうでもないと弁証法的にやっていきたいと思います。一年振りかな、こういう形式は。
A:チョコビ以来になりますからね。お久し振りです。というか、前回なんてほとんど私が主導で話を進めた記憶がありますけどね。ある意味、立場が逆転しちゃっていたような。やる気ありますか、先生?
S:やる気のあるやつは去れ!
A:タモリにかぶれないで下さい、先生。
S:はい、じゃあさっそく本題に入りましょう。まず今回取り上げる味噌は、先に述べたように福井県で醸造されたものであるわけですが、福井県というと何を思い浮かべますか?
A:原発ですかね、先生。
S:話が剣呑な方向に行きそうなやーつ。
A:いや、最近電車の中にモニターあるじゃないですか。あそこで「原発から出る放射性廃棄物、いわゆる核のゴミは安全に処理されます」をアピる、やばいセミナーで流してそうなPR映像を見ちゃったもんですから。JRも広告の出稿主に困ってるんですかね、先生?
2022年に再稼働した美浜原子力発電所
File: Mihama Nuclear Power Plant (2019-11-26).jpg
from the Japanese Wikipedia
(撮影:2019年11月26日)
S:別にJRに限らず、他の私鉄でも「もうちょっとまともな代理店かませろよ」って言いたくなる広告は散見されるけどね。それはともかく、件の味噌が造られているのは福井県越前市。紫式部はここで幼少時代を過ごしたとも伝えられています。彼女のお父さんが国司として当地に赴任して、それに家族が付いて行った形ですね。その後、当地は物流の要衝にもなって、織田信長の腹心の部下であった前田利家(前田犬千代)が当地を治めるなどもありました。
A:急に話がアカデミックになって戸惑ってます、先生。
S:で、そういう歴史がウリの町だから、歴史を感じさせる「前近代の日本の町の風景」をアピールする一角もあります。滋賀や岡山にも「美観地区」とかありますけど、ああいう感じですね。一方で、貴重な里山や自然をどうにか後世に伝えなきゃいかんということで、環境や健康に配慮した無農薬式農業などにも町ぐるみで尽力しているみたいです。
A:そういう福井に原発があったり、二〇二七年までに「福井アリーナ」を建設して開業させたりしたがってるってのは、明らかに自家撞着な気もするんですけどね、先生?
S:あぁそういうプロジェクトがあるみたいね。愛媛県武道館や有明アリーナみたいに、木材を一部に使って「自然と調和が取れた建物」的なアピールでもするのかな、どういう効果があるのかよく分かんないけど。そもそも交通アクセスの良くない土地にアリーナを造営したって、集客はそんなに見込めないと思うけどね、大阪の舞洲アリーナが好個の例で。
A:すいません、話を戻して下さい、先生。
S:ともあれ、越前市はそういう自然配慮を志向していると。で、そういう気風に相応しいというか、今回取り上げる味噌の醸造元であるマルカワみそも、醸造過程で化学薬品や添加物を用いることなく、天然醸造で米味噌や麦味噌を造る会社なんですね。
A:行政主導の第三セクターとかじゃないですよね、先生?
S:違います。一九一四年創業のれっきとした民間の蔵です。で、ここの目玉商品が、先に述べた甘口味噌「未来」になります。これは自然栽培の味噌で、どういうことかというと、原材料を育てる過程で肥料を使ってないんですね。本当に自然に育ったお米や大豆を使って、味噌に仕立てている。また紙と同様に、味噌を造るのにも大量の水が要ります。味噌の水分量は約五割とも言われていますからね。だからどういう水を用いるかが重要なのですが、こちらでは天然の地下水を使っているそうです。
自然栽培味噌「未来」
400g:税込1,512円(2024年時点)
賞味期限:7ヶ月
A:なるほど、北陸は雪国ですから、清涼な水質の地下水がありそうですもんね。でもそれ、水質検査的に大丈夫なんですか、先生?
S:一応毎年検査を受けていて、クリアはしているみたいよ。この「未来」という名前も、前の世代から脈々と受け継いできた営みを、できるだけそのままの形で次の世代にしっかりと残せるようにという希望が込められているんだと思う。ともすれば「胡散臭い」と思われかねない名前だけど。
A:越前って千年以上の歴史があるわけですから、やっぱりそういう長期的な展望を持つのが自然なんでしょうね。というところで、珍しく綺麗な形で着地しましたね、先生。
S:では今日はここまで。ごきげんよう。