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ザ・プレミアム・モルツ
プレモルの繁昌の陰にモルツの衰退あり?

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サントリーのザ・プレミアム・モルツ。略してプレモル。その名の通り、モルツというビールのプレミアム版である。さすれば、まずはモルツとは何ぞや。そこから話をはじめるのが、まぁスジであろう。

モルツとは、サントリーが1986年に世に出したビールである。当時のビール市場は(今からは想像がつかないかも知れないが)キリン一強体制であり、他社はその後塵を拝するのみであった。サントリーもまたしかり。強豪に食らいつくにはどうすればいいか。一番真っ当な方法ではあるが、他社が出していないような美味しいビールを作ろう。サントリーはそう考えた。そうして、米やコーンなど余計な材料を加えない、麦芽とホップだけの純粋なビールを(紆余曲折を経て)晴れて世に送り出した。これがモルツにあたる。



ザ・プレミアム・モルツ(缶)

アルコール度数:5.5%
原材料:麦芽、ホップ
販売開始:2003年5月
当時の国内ビールの状況はどうであったか。今日ではポピュラーな、アサヒのスーパードライはまだ存在していなかった。キリンにしても、麦芽100%ビールである一番搾りが世に出たのは1990年である。当時は麦芽100%のビールでめぼしいものは、ヱビスくらいしかなかった。なのでおそらく、ヱビスへのカウンターという意識が当時のサントリーにはあったはずである。

翌年、状況は一変した。と言っても、モルツによってではない。1987年、アサヒがご存知スーパードライを発売し、これがビール市場を席巻することになったのである。いわゆる「ドライビール」の時代が到来したのである。

その翌年、1988年、キリンはキリンドライを発売するなどして、対抗。サントリーもサントリードライを出すなどして、市場に食らいつこうとした。ただし、モルツはいじらなかった。モルツはあくまで品質の良さを売りにしていこう、そして宣伝に力を入れよう、という方向性がサントリーでは共有されていたのであろう。当時のモルツの宣伝コピーは「私はドライではありません」であった。

時代は下り、1990年代。前述のように、1990年にキリンが一番搾りを市場に投下した。良質な麦芽とホップのみを使ったクオリティー・ビール、いわゆる「プレミアムビール」の時代が訪れようとしていた。そこでサントリーは宣伝に力を入れた。当時めきめきと頭角を現していたプランナー、佐藤雅彦━━あの『だんご3兄弟』や『カローラⅡにのって』の作詞を手掛けた人である━━を宣伝企画の中心に起用し、モルツをアピールした。コマーシャルが奏功してか、モルツは市場で好評を博した。

いや、モルツはいいんだけどさ、いつになったらプレモルが出てくるんだよ。お待たせしました。ここからようやくプレモルの話である。

モルツが好評を博した20世紀末。そのしめくくりである2000年の11月に、モルツのスーパープレミアムが限定発売され、市場で好評を博した。やがてこれが通年販売されるようになり(こういうのって、黄金のワンパターンという気がしなくもないけど)、2003年には「ザ・プレミアム・モルツ」に改称された。これがプレモルの発生過程である。

このプレモルは、モルツ同様、徐々に巷間に侵透した。サントリーは2017年に、プレモルの(2003年からの)累計販売数が60億本(350ml換算)を突破したと発表。反面、モルツは衰退の一途を辿り、2015年、29年の歴史に幕を下ろすことになった(のちに「ザ・モルツ」として再リリースされたものの、「モルツ」は当今の市場にはない)。

モルツ(あるいはザ・モルツ)とプレモルはどう違うのか。それは個人の感じ方によってまちまちであろう。興味がある方は、自身で飲み比べをすればよろしい。ただ、プレモルの前段階にはモルツの躍進があり、プレモルが人気を博した陰にはモルツの衰退があった。それは疑いのないところである。





 

アサヒスーパードライ
バブル期の日本人の食事にマッチしたビール

水曜日のネコ
週の半ばに、苦みの少ないまろやかなビールを。