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おいしい水 六甲
なぜ「六甲のおいしい水」は消えたのか? 

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「おいしい水 六甲」

内容量:2リットル
硬度:約40
採水地:関西地方
「六甲のおいしい水」は、1983年4月、ハウス食品が販売開始したミネラル・ウォーターです。2010年にアサヒ飲料に譲渡され、2012年には「おいしい水 六甲」と品名を変え、現在に至ります。2019年現在、同商品は西日本でのみ販売されており、東日本では「おいしい水 富士山」が代わりに展開されています。

なぜ「六甲のおいしい水」は消えたのか? 

ハウス食品の創業者、浦上靖介は大正時代に大阪で浦上商店を創業し、カレー粉を商っていました。1960年には社名を「ハウス食品工業株式会社」に変更、1963年に発売した「バーモントカレー」で、同社は全国の支持を得ることになります。現在も、ハウス食品の本社は、東京と大阪にそれぞれ登記されています。

この「ハウス食品工業株式会社」という社名は、1993年に「ハウス食品株式会社」へと変更されました。つまり、同社は昭和の中期から平成にかけては工業系の会社だった。少なくとも、自社の「工業性」を前面に出していたと言っていいわけです。

劇作家として知られる別役実(1937-)が、創作童話を朗読する番組のために書き下ろした「工場のある街」(1973)というショート・ストーリーがあります。こんなお話です。ある日、街の一角に工場が出来て、毎日もくもくと黒い煙を煙突から出している。それを見て、ある人は「あの煙を見ていると、何か腹の底から、力が湧いてくるような気がします」と言う。街の人たちは、工場の煙を興味津々に見つめますが、やがて彼らはゴホゴホと咳込むようになります。健康被害です。街の人は、あの工場では何が作られているのかと訝り、工場見学に行きます。そこで彼らが見たものは━━と。

この物語はPHP文庫の『淋しいおさかな』という短編集に収録されていますが、現代では、工場の煙突から出る黒煙を見て「力が湧いてくる」なんていう人は、なかなか珍しいと思います。ほぼいない、と言えるかもしれない。でも1960~70年代においては、このような心性は決して珍しくはなかった。なればこそ、ハウス食品は自社名に「工業」と入れていたのだと思います。

しかし、もはやそういう時代ではなくなった。1970~80年代にかけて、工業による健康被害が、全国各地で次々と明るみに出ました。ハウス食品の本社がある大阪でも、産業の中心エリアであった西淀川区で、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染などの公害問題が多発しました。これはのちのち、俗に「西淀川公害訴訟」と呼ばれる裁判に至ります。この一次訴訟は1978年の春に提訴され、最終的に和解に至ったのは、なんと1995年の初春でした。

当時、日本の民衆は工業に、「力強さ」よりも、自身の健康や安全を致命的に損なう「邪悪さ」を、感じるようになっていったのではないでしょうか。だから、ハウス食品は自社名から「工業」を排した。そして、「水にいちいちカネ出すとか有り得ないわ。蛇口をひねればいいでしょ」と、それまでは見向きもされなかったミネラル・ウォーターが、注目されるようになります。

これは、頻発する公害に脅かされて、「より健康に良い水」を民衆が求めた、と考えるべきでしょうか。もちろん、そうした要因はあったと思います。でも事実は常に複雑系です。そこには、様々な要因が複合的に重なっていたのだと愚考します。

「六甲のおいしい水」の売れ行きが上がり出したのは、1986年以降だそうです。この年、売上が80億円を突破したと。1986年と言えば、プラザ合意の翌年です。このプラザ合意で、日本は円高を受け入れ、それに伴い、海外旅行をする日本人が増えました。海外では、安心して飲める水は「買う」のが当たり前です。その習慣を覚えた(外国帰りの)日本人の何割かが、「六甲のおいしい水」を買うようになったのかもしれません。当時はミネラル・ウォーターというものが、国内ではまだ珍しかったですから。それにバブル景気で、皆さん所得もそれなりにあったでしょうし。

ともあれ、「六甲のおいしい水」は人口に膾炙したわけですが、2008年、転機が訪れます。不当表示が発覚したのです。「六甲のおいしい水」に封入されている水は六甲山系の地下水じゃないんじゃないの、と公正取引委員会から指摘され、ハウス食品は同商品の排除命令を受けました。そして前述の通り、2年後の2010年、「六甲のおいしい水」はアサヒ飲料へ譲渡され、さらにその2年後、商品名が変更されるに至り、日本人に親しまれてきた「六甲のおいしい水」は、姿を消したわけです。

2019年現在、「おいしい水 六甲」は、西日本にしか流通していません。おそらく、全国に流通させるだけの水量を安定的に供給することが困難なのでしょう。そこには、「地下水の枯渇あるいは塩害」の疑いが、どうしてもちらつきます。地下水を汲み上げて使うと、地面の塩分濃度が高くなり、土壌の性質そのものが変質してしまいますからね。だからこそ、ハウス食品も「偽装」していたのではないかと。もちろん、邪推です。でもそう推測してしまうのも無理からぬことだと思うのですが、どうなんでしょうね。

アサヒ飲料




 

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