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ブラックモンブラン
「冬にアイス」「高級アイス」はここから?

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こんにちは。本日のお題は、九州を代表するアイスの一つと言っても過言ではないでしょう、竹下製菓の「ブラックモンブラン」です。このアイスを知らずに九州で暮らすのは難しい。そのくらい、九州人にとっては鉄板のアイスなのだと仄聞します。

と、こう啖呵を切っておいてなんなんですが、この商品名やメーカー名を見てピンとくる読者って、果たしてどれくらいいるんでしょうか。そう思ってしまうくらい、竹下製菓も「ブラックモンブラン」も(少なくとも大阪では)そこまでポピュラーではないと思います。実際、私は大阪北部で三十余年暮らしてきましたが、今まで全く知らなかったですし。

「ピンとくる人は、もしかするとほんのわずかかも知れないな」と思う以上、記事の順序としては、まず「竹下製菓とは何か」を優先的に説明することになります。

竹下製菓とは何か? 19世紀(明治時代)に竹下佐七なる人が佐賀県で創業した菓子業者を前身とする食品メーカーです。当時はカルカン(九州で有名な和菓子)などを作っていたようですが、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間のいわゆる「大戦間期」に一度倒産。その後、佐七さんの子孫が再起を図り、1927年に設立したのが「竹下製菓」です。



竹下製菓・工場外観(佐賀県)

出典:Takeshita seika.jpg
from the Japanese Wikipedia
(撮影:2010年5月7日)


同社の経営は、その後も竹下家の子孫によって行われてきました。2020年現在、同社の代表取締役社長を務める竹下真由さんは、創業者である佐七さんの末裔にあたります。

では「ブラックモンブラン」とは? 真由さんのお祖父さんにあたる竹下小太郎さん(同社の前会長/故人)が1969年に開発した、クッキークランチ系のアイスクリームです。基本となるのはバニラアイス。その上をチョコレートでコーティングし、さらにその上にクッキークランチを、ふんだんにまぶしています。食感は、「ざくざく」と「スイート」のミクスチュアといった感じでしょうか。

「モンブラン」と聞くと、私などはケーキのモンブランが思い浮かびますが、そうではありません。アルプスの山のほうの「モンブラン」なのです。小太郎前会長がフランスに出張に行った際、モンブラン山を見て、「この真っ白な山にチョコをかけたらさぞ美味しかろう」とインスパイアされ、開発したアイスだということです。

つまるところ、「ブラックモンブラン」とは「真っ白なモンブラン山をチョコレートで黒く塗れ」という意思を宿した名前なのです。ペイント・イット・ブラック。それこそが「ブラックモンブラン」の本意であろう、と。


で、小太郎前会長が見た「真っ白な山」とは、当然、雪山です。つまり、季節は冬。竹下の「ブラックモンブラン」は、いわば「冬の山にインパイアされたアイス」なのです。今でこそ「冬にアイス」はそんなに珍しくありません。しかし、1969年の日本では「アイスは夏に子供が食べるもの」という考えがドミナントだった。私はその時代にはまだ生まれていませんが、史料を徴する限り、そうだったのだろうと思います。何が言いたいかというと、要は「当時は『アイス』と『冬』は結びつかないものだった」です。

「たぶん『冬の雪山』というシチュエーションが涼しげな感じがして、それが夏場に奏功したんだろう」と考える向きもあると思います。リーズナブルな考えだと思います。しかし、それだけでは納得できない。というのも、同アイスが売り出されたのは1969年の5月初旬でしたが、好セールスを記録し出したのは同年の秋口だったからです。つまり、同アイスは「冬の山にインスパイアされた」という出発点に呼応するように、冬場にブレイクしたのです。

当時、「ブラックモンブラン」はどういうアイスだったのか? 当時、アイスの値段は5円から10円が主流。アイスは子供のお菓子でしかなかったのですから、そのあたりが妥当だったのです。ところが、「ブラックモンブラン」は当時20円もした、つまり「高級アイス」だったのです。バニラアイスの上にチョコレート、さらにクッキークランチもまぶすとなると、どうしてもコストがかかる。販売価格が20円になるのは仕方がないことだったのです。

今でこそ「冬にアイス」や「高級アイス」は珍しくありません。もはや子供に限らず、老若男女がアイスを食べる。そういう時代です。でも、1969年はそうではなかった。とすると、「ブラックモンブラン」は現在のアイスのありようを先取りしていたのかも知れませんね。

竹下製菓株式会社




 

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