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岩谷堂箪笥
どこを取っても岩手産、みたいなもの

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岩谷堂箪笥は岩手県に何百年も前から伝わる「伝統家具」です。当地は18世紀頃から木工が盛んだったようで、そのスペシャルティを活かした木製家具といったところです。箪笥(たんす)とありますが、箪笥のみならず、その技術を応用した仏壇なども生産しています。



主な材料は、木目がきれいな欅(けやき)や桐。これらを丁寧に加工し、漆を施します。木目の鮮やかさ、きれいさを際立たせるため、また、箪笥を長持ちさせるために「拭き漆」を何回も施すと聞きました。

拭き漆とは、木地を漆で拭きあげる仕上げのことです。フツーの木材は施工直後から劣化が始まりますが、拭き漆を施した木材には漆の塗膜が生じるため、見た目も良くなる上に、耐久性もグンと向上するのです。歴史のあるお宮などには、必ずと言っていいほどこの拭き漆が施されていると言われています。

また、手打ち手彫りの飾り金具は同じく岩手名産の南部鉄。なるほど、まさに「メイド・イン・岩手」と言えましょう。どこを取っても岩手産、みたいな。しかもそれで堅牢性が高いとなれば、たとえば嫁入り道具としても十分成立すると思います。

━━というのが、岩谷堂箪笥の主な紹介文になりましょう。



ここまでざっと述べてきて、難色を示す向きもあるかも知れません。たとえば「いいのかも知んないけど、オレ、こんな重厚な箪笥が似合う部屋に住んでないんだよな」とか「うち、フローリングの洋室しかないし、スペースもそんなにないし、それを贈るべき子供もいないし」とか。これはこれで無理からぬ話だと思います。

なぜか知らん、日本の住宅は昭和後期以降、和室ではなく洋室がデフォルトに設定されています。たとえば『ドラえもん』を拝読すると、主人公ののび太が暮らす野比家は、のび太の部屋も両親の部屋も和室です。みんな畳敷きの部屋に、布団を敷いて寝ている。洋間はパパが客人を迎える応接室くらいしかありません。昭和後期まではこういう住宅が一般的だったんです。

ところが平成に入り、和室と洋室のバランスが逆転しました。フローリングやカーペットの洋間が標準仕様になり、和室は申し訳程度に一室あるだけというようになります。平成も後半に入ると、和室が全くないマンションや一軒家も珍しくなくなりました。

それが時代の趨勢なのかなんなのか、私は存じ上げません。ただ一つ言えるのは、和室が全体的に少なくなれば、和箪笥や仏壇のニーズも自ずと減るということです。たぶん今の小中学生のなかには、障子やふすまを見たことがない子だっているでしょう。そんな住宅事情で毎日を過ごして、どうすれば和箪笥を求めるようになるのか? 正直、私にも見当がつきません。

土地の「伝統家具」は大切なものでありましょう。また、堅牢な箪笥だから、親から子、なんなら孫へも受け継げる。それも大切なことかも知れません。でも私達の多くは、その「伝統」をあまり必要としない環境で、日常を暮らしている。言い換えれば、私達は先祖の営みから遠く隔絶した世界で過ごしているのです。そういう問題だって、あると言えばある。

そういう、ある意味で先祖を切り離して過ごす私達が、子孫に何かを一方的に贈ろうとするのは果たして「適切なおこない」と言えるのでしょうか? 一考に価する問いだと思います。

ただまぁ、こういう問いも万人にあてはまるものではないでしょう。たとえば「うちは純和風建築だから和箪笥、似合うぜ」とか「今度うちの子が結婚するから、こういう和箪笥を贈ろうかな」という方も、おられるかも知れません。その折には、どうぞご検討ください。


岩谷堂箪笥生産協同組合





 

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