猫ちぐら━━ってご存知ですか? たぶん、聞いたことがない方も多いと思います。私が初めて「猫ちぐら」と聞いたのは、昨年(2020)、スピッツが同名の楽曲を発表したときでした。ただ、その折も猫ちぐらが何なのかまでは判然としなかった。
猫ちぐらとは、江戸時代より新潟県で作られてきたと言われる、猫用の(かまくら状の)巣箱あるいは寝床みたいなものです。猫飼いにとっては家具の一種と言えますが、しかし、なぜ猫にそういうものが必要なのか? よく「犬は人に付き、猫は家に付く」と言います。私は犬も猫も飼った経験がないので実感としてはよく分かりませんが、恐らく猫にとっては「家≧人」なのでしょう。それなら、猫を飼うにあたって、「猫の家」的なものが開発されても、さほどおかしくはありません。
猫ちぐらに入る猫
出典:Cats (8258631090).jpg
from the Japanese Wikipedia
(撮影:2012年12月9日)
この「ちぐら」は(地方によっては「つぐら」とも)、もともと赤子をあやすための、藁で編んだゆりかごを指すのだとか(恐らく「稚蔵」の意であろうと推察します)。
新潟は、2020年においても米の生産量が日本一の、米どころとして有名な地域です。つまりは「農業立国」で、そこで暮らす人々はおおむね農民だったわけです。ちぐらは、そういう農民のためのアイテムでした。
農作業をしていると、特に農繁期なんかは、子供の世話をしている余裕がありません。一家総出で農作業をしなきゃいけない。雑草を取ったり、水の過不足に四六時中気を配ったり、収穫したり、選別したりしないといけません。子供だって5、6歳にもなれば、農作業を手伝う労働力になります。でも、赤ん坊なんかはまず無理です。と言って、おちおち家に置いてもおけない。じゃあどうするかというと、ちぐらに赤ん坊を入れ、家族の目の届く範囲に置いておくとなるわけですね。「母親がおんぶして農作業すればいいじゃないか」と言う人は、どうぞ試しに(自己責任で)赤子を背負って農作業してみてください。たぶん、2日で身体壊しますけど。
で、いつしかこのちぐらが猫にも応用された、というわけですね。米をつくる稲作においては、ネズミやリスなどの齧歯類、あるいはスズメやカラスなどの鳥類は、農作物を荒らす「害獣」として認知されます。農家の敵です。だから当地の農家が害獣対策として猫を飼っていたであろうことは想像に難くありません。猫は米農家の大事なガードマンだったのです(たぶん)。
猫ちぐらをつくる人
出典:Production of Neko-chigura.jpg
from the Japanese Wikipedia
(撮影:2007年7月7日)
猫ちぐらは、主に稲藁を編んでつくられます。家具の一種と言っても、別に決まった編み方があるでもない、民間人が自由につくる民芸品ですから、欲しいという猫飼いの人は、どこかで藁だけ調達してきて、ご自身で創作してみてはいかがでしょうか。時代はDo It Yourselfです。