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『安全地帯Ⅱ』
安全地帯の世界観は、ここで確立された

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今回は安全地帯のセカンド・アルバム『安全地帯Ⅱ』についてである。もしかしたらあなたは「今から安全地帯を聴くならベスト・アルバムがあるじゃないの。なんでそんな古いオリジナルを?」と訊ねるかもしれない。そう、その見解には一理ある。今ではよほどのマニアか好事家以外、34年前に出たオリジナル盤なんか聴いてどうするの、という感じかもしれない。

けれどベスト盤は(必然的に)ダイジェストでしかありえない。安全地帯が安全地帯であること、安全地帯の路線というものを的確に見出したポイントは、ベスト盤ではうまく把握しかねるはずだ。安全地帯を「知る」場合に必要不可欠な定点と言うか、そういうものはこのオリジナル盤に内包されているのであり、かような点において、未だ聴かれる意義を失ってはいないと思う。

時は西暦1980年前後にまで遡る。

当時、安全地帯は、地元、北海道を拠点にバンド活動を展開しており、地元のコンテストで軒並み好評を博す、いっぱしのコンテスト荒らしになっていた。さぁ東京へ進出しようか、でもどうするか、と考えあぐねている段階。そんな彼らに目をつけたのが音楽プロデューサー、金子章平だった。彼は安全地帯を歌手、井上陽水と編曲家、星勝に引き合わせる。

安全地帯のテクニックやキャラクターを見込んでのことであろう、陽水は自身のツアーのバック・バンドとして、安全地帯を受け入れた。かくして安全地帯は、1981年秋から1983年初頭まで、井上陽水のバック・バンドを経験する。この間、安全地帯は金子や星のプロデュース下でメジャー・デビューも果たした。けれど手応えは今一つ芳しくなかった。シングルもアルバムも反応はパッとしなかった。当時は、アルバムを3枚出してダメだったらリストラ、といった風潮がレコード会社にあったため(今はどうか知らないけど)、安全地帯、とりわけメイン・ソングライターの玉置浩二にかかるプレッシャーは、相当なものであったはずだ。


『安全地帯Ⅱ』
1984年5月1日発売

キティ・レコード

01. ワインレッドの心
02. 真夜中すぎの恋
03. 眠れない隣人
04. マスカレード
05. あなたに
06. …ふたり…
07. 真夏のマリア
08. つり下がったハート
09. ダンサー
10. La-La-La


青い下線は執筆者推薦曲を表しています。


作詞:井上陽水(01, 02)
作詞:松井五郎(03~10)
作曲:玉置浩二
編曲:星勝、安全地帯
プロデュース:星勝、金子章平

当時、陽水に食事に誘われた時のことを玉置はこう述懐している。「食べながら陽水さんが、“後楽園球場の切符は手に入れるんだろう?”って言うんですよ。野球の話かなと思ったらそうじゃなくて、安全地帯が後楽園球場でコンサートをやれるくらいのバンドになる覚悟はあるのか、という話でした。今でもはっきり憶えてますね(笑)。“今のままではダメなんだな”とわかったし、“よし、やってやるぞ!”という気持ちも湧きました」(*)

こういった重圧をバネにして、玉置は安全地帯の代表曲のひとつ「ワインレッドの心」を生み出した。1983年のことである。作詞は彼らのマスターでもあった陽水。この曲はCMに使われ、大ヒットを記録した。

鳴かず飛ばずに終ったファースト・アルバムでは、作詞は外部の作詞家、松尾由紀夫や小椋佳が担当していたが、彼らでは力不足だという判断がブレーンにあったのだろう。クオリティーは悪くなかった。けれど安全地帯という、どこの馬の骨とも知れないバンドを世間に認知させるだけのパンチ力もなかった。来たるセカンド・アルバムでは、井上陽水と松井五郎が作詞に起用されることになった。

そしてこの起用が、安全地帯の路線を決定付けた。

おそらくは編曲家、星勝による所が大きいであろう、オリエンタルかつ「夜の大人の色気」を前面に出したムーディーな音像と世界観が『安全地帯Ⅱ』には通底している。陽水と松井の歌詞は、その世界観を申し分なく表現している。バンドも、陽水のバックをこなしたことで、技術面での不足はない。「眠れない隣人」などで聴ける、おぞましいまでに単調なシンセサイザー・リフは、この時代ならではの代物ということでご愛嬌か。ともあれ、カードはそろった。このアルバムはオリコンでの1984年度年間チャート19位にランク・インするほどのヒットを記録し、安全地帯を人口に膾炙させた。安全地帯におけるひとつの座標軸たる世界観が、ここに確立されたわけである。


*『別冊カドカワ 総力特集 井上陽水』(KADOKAWA、2009年)p36


玉置浩二・安全地帯 OFFICIAL WEB







 

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