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『ガールズザウルス』
楠桂が描く「女なんてみんなザウルス(恐竜)」

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皆さん、こんにちは。本日のお題は、楠桂さんの『ガールズザウルス』です。楠さんと言えば、お姉さんの大橋薫とのコンビで、いわゆる大橋姉妹として、ご存知の方も多いかもしれませんね。

大橋姉妹と言えば少女漫画家という印象をお持ちの方も多いでしょうが、少年誌や青年誌でのご活躍もあるのです。楠さんの代表作であろう『鬼切丸』も、少年誌での連載でしたからね。ただ『鬼切丸』って、ぶしつけながら、私には今一つピンとこないのです。雰囲気モノと言うのでしょうか、あの雰囲気が好きな方にはたまらない和ホラーだと思うのですが、物語としてあまり好みじゃない。むしろ『鬼切丸』の後に連載された『ガールズザウルス』でしょ、と。そんなわけで今回は『ガールズザウルス』です。

今作もまぁ、ある意味ではホラーなんですけど、基本的にはコメディです。どういうことかと言うと、主人公の男子高校生、知立真悟くんは女性恐怖症なんですね。正確に言うなら、第一話の冒頭で女性恐怖症になってしまい、女性と普通に接することが困難になる。それゆえ女性にはミステリアスな人に映り、モテてしまうのです。ナンタルチアですね。こうなるともうモテればモテるほど地獄絵図になるわけですから。

それなら女と出来るだけ関わらずに生きていけばいいじゃないか。そうはいきません。彼は高校生です。周りには同性の友達がいて、その中には童貞を卒業する輩も出てくるわけですよ。友が、友がおれを置いて遠くへいってしまう。このままではいかん。かくして知立くんは、女性恐怖症を克服するべく、孤軍奮闘を始めるのです。

この作品ではとにかく女の怖さ、女の暴力性と自己中心性が、女流作家の手によって(あり余るリアリティをもって)デフォルメされます。知立くんは作中にて独白します。おれにとって女は恐竜ザウルス。この世で、あんな恐ろしい生き物はもう他にいやしない。女難ホラー兼コメディという世にも珍しいジャンルの作品ですが、こういう作品こそ男性作家には描けない、女流ならではの御業だと私は思うのですけどもね。

さて、今作の連載期間(2001~2008年)というのは、実は楠さんの闘病期間と重複します。彼女は、妊娠してもお腹の中でうまく胎児が育たず死産や流産に至る「不育症」と闘っていました。その顛末は彼女の『不育症戦記』というコミック・エッセイに詳しいのですが、奇しくも作者と主人公(知立くん)の双方が並行的に闘病生活を営んでいたことになるのです。

『ガールズザウルス』について楠さんは、実生活と作品は切り離してお色気コメディを描き上げたと語ります。実際、熟読玩味した身でも、コメディに終始していると思います。楠さんのタフネスとプロ根性に敬服するばかりです。しかし作品は創作者の心をどこかで映すもの。終盤、知立くんが「おれの女性恐怖症って本当にもう一生治らないのかな」と保健室の扶桑先生に訊ねるのですが、そのときの扶桑先生の答えや、あるいは知立くんが不意にレディースクリニックを訪れることになるエピソードなどには、楠さんが闘病生活で体得した知見が反映されているように思えてなりません。

絵的にも、今作のヒロインの西春遥と『不育症戦記』の楠さんの自画像って、瓜二つでしたし(特に横顔が)。

ヒロインの西春遥(左下隅)
なので、もちろんどういうふうに読まれるのも読み手の裁量ではあるのですが、今作を通読された暁には『不育症戦記』を読まれてみても良いかもしれません。どちらも2018年現在、絶版になっているので、少し難儀かもしれませんが。

ちなみにこの『ガールズザウルス』、コミックスは3巻まで出ているのですが、途中で掲載誌を移動させられたことに伴い、内容はそのままに『ガールズザウルスDX』として続投されました。よって計13巻出ていることになります。ご了承ください。

作品情報

・作者:楠桂
・出版:小学館
・連載期間:2001年6月~2008年9月






 

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