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万双のトートバッグ
男が革製のカバンを持つとして

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本稿は二〇一四年に発表した「万双のオーバーナイト・バッグ」の記事を全面的に書き直したものである。タイトルからご賢察のように、メーカーは同じでありながらも、フィーチャーするアイテムはオーバーナイト・バッグからトートバッグに替わっている。ここではなぜ記事をリタッチしたのかを説明(あるいは釈明)しつつ、万双のトートバッグについて語っていきたい。

なぜ昔日の記事をリタッチするのか? 平たく言えば二〇二六年現在、万双はオーバーナイト・バッグを生産していないからである。



万双でかつて生産されていたオーバーナイト・バッグ

オーバーナイト・バッグという言葉はそんなに馴染みがないかもしれないが、これはまぁ、サラリーマンが泊まりがけで出張する時用の「大きめのビジネスバッグ」と思って頂ければ大過ない。英語圏でオーバーナイトというと、主に「一晩中」とか「夜を徹して」を意味する副詞であるが、万双では「日帰りではなく泊まりがけ用の」あたりを指す形容詞として使ったのであろう。泊まるとなると、ビジネス用品だけでなく替えの靴下や下着なども必要になる。それで「大人の男性が持っていて恥ずかしくないような大きめのカバンを」ということで作られたのが、万双のオーバーナイト・バッグだった。

しかし二〇一四年と二〇二六年の間には、あの忌まわしい「コロナ禍」がでんと横たわっている。覚えている人も多かろう。当時は泊まりがけの出張どころか出勤や会社訪問すら「自粛」しなくてはならなかった。人と直接会うことは憚られ、それがいつ終わるとも知れず何年も続いた。暗いトンネルのなかを、明かりもナビもなしでおそるおそる歩くようなエポックだった。

ああいう世相にあっては、泊まりがけ用のオーバーナイト・バッグなどはそう売れないはずである。だから万双はオーバーナイト・バッグの生産をやめたのだと思う。勝手な推測だけれど。

ではなぜトートバッグなのか? それを語る前に、「そもそも万双とは何か」を叙したいと思う。



万双の双鞣和地 トートバッグ(黒)
重量:1500 g
価格:税込75,900円(2026年6月時点)

万双は東京の上野(台東区)で革製のカバンや財布の製造、販売を手掛ける「革モノ屋」である。そういえば吉田カバンの創業者=吉田吉蔵も、独立前に上野で職人としての修業を積んでいたが、上野というのはカバン職人が集まる地域柄なんだろうか? 私は大阪の人間なのでよく分からない。

上野で万双が創業したのは、今から三十年以上前の一九九五年。この「万双」という特徴的な名前は、彼らの創業時の意志とは関係ない。彼らが店を構える場所で前に出店していた店の屋号を、契約上変えられないからと事務的に引き継いだだけである。たまにありますね、不動産契約の都合上、そこで店を営むなら定食屋でも花屋でも同じ屋号(たとえば「来々軒」とか)を名乗らないといけないっていう店。

つまり万双の前に、同じ場所で営業していたのがたとえば和菓子屋だったら、それは「和菓子屋・万双」だったのだし、彼らが(仮に)撤退した後に、同じ場所で誰かがバレエスタジオを開いたとしたら、そこは「バレエスタジオ・万双」になるのである。そんな名前のスタジオに生徒が集まるのか、そこまでは知らないが。

ということは、彼らは「自分達がどういう名前を名乗るか」にこだわってはいないということである。少なくとも創業時においてはそうだったはずである。屋号やブランド名より「革のカバンを作り、それを商うこと」を重視した。名より実を取ったと言おうか。



万双のダブルオイルシュリンク トートバッグ(グレー)
重量:1370 g
価格:税込63,800円(2026年6月時点)

この推量を裏づけるように、彼らの作るカバンにはブランドロゴがない。たとえばルイ・ヴィトンだったら、あの特徴的なモノグラムがカバンのどこかに刻まれていて、それがユーザーに求められていたりもする。しかし万双は自社製のカバンにそういう分かりやすい「キャラ立ち」を施さない。理由は「カバンは最終的にはユーザーの持ち物になるんだから、メーカーの名前をでかでかと主張するのはなんか違う」と考えるからだとか。なるほど、彼らは「名より実を取る」のである。

個人的には、こういう(ロゴがない)仕様って今風だなと思う。というのも、ここ十年くらい、カバンとか服においてブランドのロゴは、「無い方がいい、目立たない方が望ましい」的な傾向があると、町行く男性達を見て感じるからである。無印良品のカバンや服が一定の人気を博しているのも、そういう風潮ゆえではなかろうかと。

このトレンドがどこまで続くのかは分からない。だが「ブランドのロゴなんか目立たせたかないよ。なんでカネ払ってまでサンドイッチ・マンを演じなきゃいけねぇんだ」と考える人は、いつの世もそれなりにいるだろう。となると、万双のカバンはやはり「名より実を取る」人向けなのかもしれない。

最後に、なぜ彼らのラインナップの中からトートバッグなのかについて触れておく。



万双のダブルオイルシュリンク トートバッグ(グレー)
重量:1370 g
価格:税込63,800円(2026年6月時点)

四十男の一人としては、男が革製のカバンを持つとして、さてどういう形態のバッグが一番使いやすく、重宝するかというと、これはレザートートだろうと思うからである。ビジネスバッグだとプライベートではそんなに使わないし、リュックは重さによっては肩や背中にしんどい時がある。いろいろ加味するとトートあたりが一番汎用的なのではないか。そう思うのである。レザートートであれば、ビジネスシーンでも十分通用するだろうし。



万双のダブルオイルシュリンク トートバッグ
(カラーはグレー、ネイビー、キャメル、黒の4種類)

重量:1370 g
価格:税込63,800円(2026年6月時点)

万双公式オンラインショップ




 

ポーター
吉田カバンの看板