身内自慢みたいで恐縮だが、一昨年(二〇二四)の夏、病を得て七十代前半で亡くなった父は、晩年までジーンズを好んで穿いていて、似合ってもいた。だから私は、「ジーンズというのはカジュアル感が強めのアイテムだから、若いうちはともかくミドル世代やシニア世代には相応しくない」的な言い分には、軽々に首を縦に振れない。そういうのは人による、または着こなしによるのではないかという気がするのである。
ただ、そうは言うものの、つらつらと思い返してみるに、父は同じジーンズを十年以上穿くとかはなかったように思う。だいたい数年に一回は新調していたし、ヴィンテージやプレミア品に興味を持つこともなかった。つまり「古びたジーンズ」は穿かなかったのである。
それを踏まえた上で、では今の四十代前半の私が買って穿くジーンズとして、どうなんだろうかと考え込んでしまうブランドがいくつかある。もちろん(というか)今回取り上げるオアスロウもその一つである。

BEAMS: orSlow / SUPER DAD'S DENIM PANTS (One Wash)
Size: S、M、L、XL (Men's)
税込24,200円(2026年7月時点)
オアスロウは二〇〇五年に設立された日本のファッション・ブランドである。メンズ向け、レディース向けにミリタリー系、作業着系のさまざまなアイテムを展開しているが、中心となるのはアメリカのヴィンテージ品を範としたジーンズである。デニム愛好家のあいだでは、オアスロウの名は「国産ジーンズ・メーカーの一つ」として広く知られている(らしい)。
ブランドの英語表記は「orSlow」。なるほど、どこに行っても高効率の歯車であることを要請される忙しない現代において、あるいはスロウでもいいのではないかと提唱するブランドなのかな、と思ったがどうやら違うらしい。orはオリジナリティーの頭文字で、ジーンズ本来のテイストをゆっくりではありながらも届けたいということで付けられた名前だとか。
二〇二六年現在、オアスロウの本社は兵庫県内にある。といっても、彼らのアイテムはローカルな規模ではなく、ビームス、ウッディー・ハウスなどのセレクトショップを通じて全国的に取り扱われている。

BEAMS: orSlow / 101 DAD'S FIT DENIM PANTS (One Wash)
Size: M、L、LL、3L (Men's)
税込24,200円(2026年7月時点)
オアスロウの創業者兼デザイナー=仲津一郎は、一九七三年に大阪府で生まれた、いわゆる団塊ジュニア世代の男性である。前世紀末に岡山県内のデニム系メーカーに就職し、数年間経験を積んだあと、二〇〇四年に独立して自前のブランド「スロウデニム」を創設。これがオアスロウの前身となった。
アメリカで二十世紀半ばに作られたヴィンテージ・デニムを偏愛する仲津は、ブランドの方針を「当時のジーンズのテイストを丁寧に再現しながら、現代に通じるようにコンテンポラリーな要素も適宜加えること」としている。
ファッション・ブランドとしては妥当至極なポリシーだと思う。しかしヴィンテージ・デニムをある種の羅針とする以上、オアスロウのアイテムは「オールドファッション」感が一定以上漂うものになる。
オアスロウのジーンズには、「メイド・フォー・ロング・アフェクション」と書かれたタグが付いている。要するに「長く愛用してもらえるように作られています」ということであろう。京都銀行風に言えば、「なが~いお付き合い」向けなのである。

BEAMS: orSlow / SUPER DAD'S DENIM PANTS (One Wash)
Size: S、M、L、XL (Men's)
税込24,200円(2026年7月時点)
ジーンズを長く穿き続けると、生地が色落ちしたりへたってきたりする。それが独特の味になり、ユーザーの愛着をかき立てる。それが定説で、だからこそジーンズは「穿いて育てるもの」と語る人も多くいる。オアスロウのアイテムは、「長く穿き続けて育てるに価する」と自負されているのである。
それはそれでいい。そういう文化は分かる。個人的にも、十年以上前(たぶん二〇一四年か一五年あたり)に買ったリーヴァイスの紺のジーンズを、未だに持っていたりするから。
理由はというと、色落ち加減が絶妙で、どうにも「良いよなぁ、綺麗だなぁ」と思って捨てられないのである。裾が破れた時はさすがに捨てようかと思ったのだが、結局リペアに出して今も穿き続けている。それくらい愛着があるのである。ヴィンテージでも希少品でもない、至ってフツーのジーンズなのだけれど。私が所有するブルー・ジーンズはこれ一本で、替えを検討するのはこれを捨てる時かなと思っている。
だから「馴染んで色落ちしたジーンズがいい」というのは感覚的には分かる。しかしこういうのはあくまでユーザーの個人的な思い入れであって、他人から見ればただの「古びたジーンズ」でしかない可能性がある。そしてそれなりに年をとった人が古びたアイテムを身に着けていると、薄汚い、みすぼらしいといったマイナスな印象を増長する可能性もある。
言い換えれば、ヴィンテージ・デニムとかオールドファッション感のあるジーンズというのは、ある程度若い人が穿いてこそサマになるのではないか。そういう疑念がぬぐえないのである。二十世紀半ば、ジーンズが単なる作業着からファッションへと昇華したのは、ジェームズ・ディーンというカリスマ俳優によるところが大きかった。しかし彼は、二十四歳で夭逝した「永遠の若者」なのである。
最初に語ったように、老齢の父にもジーンズは似合っていた。ただし彼が愛用していたのは、あくまで「古びていないジーンズ」である。私がオアスロウのジーンズを買い、それと「なが~いお付き合い」をしたとして、その時に私は今より(当然)齢を重ねているし、ジーンズも大なり小なり古びている。それは薄汚いとか、みすぼらしいという感じに見えはしないだろうか? そういう懸念がどうしても頭をよぎるのである。

BEAMS BOY【別注】orSlow / Monroe Pants Special (Indigo)
Size: 0、1、2 (Ladies')
税込26,950円(2026年7月時点)
もっとも、「だから二の足を踏んでいる」とかではない。どちらかと言えば、次のブルー・ジーンズの候補として、どうなんだろうかと思案しているという感じである。果たして(これからの)私に似合ってくれるかどうか。怖いもの見たさ? そういうのもあるかもしれない。

BEAMS BOY【別注】orSlow / Monroe Pants Special (Indigo)
Size: 0、1、2 (Ladies')
税込26,950円(2026年7月時点)