日本語 | English

■ 3月31日から4月29日にかけて、時計をフィーチャーいたします。







Atom_feed
日本のマンガ
漫画家

藤田和日郎

< 2017年01月14日 >

2016年3月、少年マンガ家、藤田和日郎が「週刊少年サンデー」上に新連載をうちだした。『双亡亭壊すべし』だ。今作はモダン・ホラーという触れ込みだが、『うしおととら』など、作者の初期の作品にもホラー要素は盛り込まれていたから、ある意味で、藤田和日郎のマンガ家としての原点を、現在の感覚と技量で表現した意欲作と言えるだろう。

しかしその第一話を拝読して、どうも違和感が残った。画風やキャラクターは正に藤田和日郎のそれなのだが、何か腑に落ちない。藤田和日郎のパブリック・イメージを片方では引き受けながら、もう片方では裏切っているような構成なのである。この違和感の根源にこそ、彼の表現者としての素顔が隠されているのではないか。『双亡亭壊すべし』の裏側を探る。



■ まずは藤田先生が『双亡亭壊すべし』を「週刊少年サンデー」に連載されるようになった経緯から、教えて下さい。

藤田和日郎(以下、F): 「サンデー」では『月光条例』というマンガを2014年の4月まで連載させて頂いて、そのあと、今度は「モーニング」(講談社)で『黒博物館』シリーズの新作の連載をはじめました。でもやっぱり少年マンガが好きなんですよ。どうしても少年マンガを描きたくなっちゃう。


■ 「モーニング」さんは、青年マンガ誌ですからね。

F: だから講談社の方にも言ったんですよ。「おれ、悪者を倒す話とか大好きだし、そんなのしか描けませんよ」と。そして『黒博物館』の担当編集の方は、それを快諾してくれたんです。ただあのシリーズは短くまとめることが前提のお話だったので、2015年には終えました。それで、古巣である「サンデー」に帰って来させて頂いた、という流れです。



(C)藤田和日郎/小学館

藤田和日郎(漫画家)

1964年、北海道旭川市生まれ。
1988年に漫画家としてデビュー以降、
「週刊少年サンデー」、「モーニング」などを
主戦場に活動を続けている。
代表作に、『うしおととら』、
『からくりサーカス』など。
2016年、『双亡亭壊すべし』を
「週刊少年サンデー」にてスタートさせた。



■ 少年マンガ誌で少年マンガを描くべく、と。2015年、「サンデー」の新編集長が就任して、「雑誌の改革を行なう。今後は有望な若手を育てる雑誌にしたい。そこにはベテランの先生も必要だ」と、所信表明をされたことが話題にもなりました。その「ベテランの先生」の中に藤田先生のお名前もありましたが、そのあたりのやりとりは、いかがでしたか? ベテランの起用って、安定感を求められてのことだったりしますが・・・

F: 安定感とかは求められませんでしたよ。むしろ突っ走ってくれって感じでした。そもそも、こっちは作家ですから、面白いマンガを描くことで精一杯なんですよ。作家なら誰だって自分の作品が一番でありたい、打席に立つ限り四番バッターでありたいと思って描いています。雑誌全体のバランスを考えて、まずまずの人気が獲れたらいいと思う作家なんかいませんよ。だから編集部の思惑なんて、知ったこっちゃないんです。

ただ「サンデー」で描かせてもらえる、必要として頂けるということは非常にありがたいことです。それに、面白いかどうかを決めるのは、作家じゃなくて読者です。こっちがいくら面白いと思って描いた話でも、読む人がいなくなっていったら、それは敗けですよね。だから編集部には「面白くないと思ったら引導はそっちから渡してね」と言ってあるんですよ。


■ 今作はモダン・ホラーだとされていますが、藤田先生の、モダン・ホラーの定義をお聞かせ下さい。ホラーには他にゴシック・ホラーとかもありますが。

F: 現代が舞台になっていることですよね。現代の科学力やメンタリティを持つ人が怪異と出会った時に受ける衝撃であったり、それにまつわる人間関係を描いたものだったり。モダン・ホラーでおれが思いつくのは、スティーヴン・キングの小説です。ゴシック・ホラーは怪異が地味だし、スピード感がタルい(北日本の方言で、かったるいの意)ので、少年誌には不向きだと思いました。だから古くからある怪異に、現代の人がどう立ち向かうのかを描きたいんです。その点では『うしおととら』と似ているかもしれません。


(C)藤田和日郎/小学館
『双亡亭壊すべし』第一話より

「サンデー」でのおれの作品って長いのばかりなんです。『うしおととら』が6年、『からくりサーカス』が9年、『月光条例』が6年、完結するのに要しました。『からくりサーカス』なんか短篇のつもりだったのに、あんなに長くなった。たくさん読まないと面白さが伝わらないのは、読者に甘えているのでは、とか、もっと短くまとめらんねぇのかよ、とか自問自答があったものですから、その反省を活かし、今回はテンポよく駆け抜けようと思っています。コミックスの巻数で言えばひとケタ、つまり10巻未満で終わらせます。


■ 長くなると、読者へのインパクトや訴求力も減っていきますからね。長尺は確かにホラーとして通じないかもしれません。そうすると、先生にとっては挑戦作ですよね。

F: 挑戦というか、今までも同じような話は描いて来ませんでしたし、今回も、今までのとは違いますよ、モダン・ホラーやっています、という感じです。そうやって自分のケツを叩いて、モダン・ホラーと言い切ったぞ、テンポよく進めないとマズいぞ、と自分にハッパをかけているんですよ。そうしないと、ずっと同じような手グセで同じような話ばかり再生産していたら、描いているおれ自身がそれに飽きてしまいますもん。




藤 田 和 日 郎 作 品