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■ 2月29日から3月30日にかけて、文房具をフィーチャーいたします。







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K: そうですね、CDは44.1キロヘルツ/16ビットなので、これ以上の24ビットでもハイレゾになるのですが、他に出ているのが、192キロヘルツ/24ビットや96キロヘルツ/24ビット、DSDとよばれるものまで、色々なハイレゾの規格があります。そもそもハイレゾはローレゾ(AACやMP3などの形式)が無ければ出てこなかったかもしれないんです。CDで44.1キロヘルツ/16ビットあるのに、なんでわざわざグレードを落として聴くのかと、作る側からするとガクッと来たんですね。


■ ファイル化する前にはMD(ミニ・ディスク)というメディアもありましたけど、その時はそうでもなかったんですか?

K: いや、MDの時もそうでしたよ。ローレゾというのは、一列縦隊で、前の人が大きな声で叫ぶと後ろの人の声は聞こえない、なら後ろの人は要らないから削ろう、というマスキング効果(ある音が他の音に妨害され,遮蔽されて聞こえなくなる現象)を応用した考え方なんです。それで後ろの人に相当するデータを削ってサイズを小さくする。でも後ろにあったのは、奥行きであったり、心に来るものであったりするので・・・だから作る側は落ち込んでいたんですよ。どんなに一生懸命作っても、削ぎ落とされて聴かれちゃう、と。



小泉由香
マスタリング・エンジニア

1989年にマスタリング・エンジニアとして
活動を開始。以来、ロック、クラシック、
ジャズ等、ジャンルを問わず、様々な音楽の
マスタリングを担っている。あこがれの
マスタリング・エンジニアは、アメリカの
マスタリング界の重鎮、ボブ・ルドウィッグ。
■ 料理を作る時、「隠し味なんて隠れるから要らないな」と言って、材料費を削減するような感じですね。じゃ、もっと前のカセットの時も・・・?

K: いや、カセットはそれとは違います。CDからカセットに録音しても、アナログなので一応そのまま記録するんです、だから(情報が)無くならない。テープの特性で削れる所はあるかも知れないけど、捨ててはいないんです。映像はLDからDVD、さらにブルーレイとどんどんスペックが上がるのに、音楽は何で下がるんだ、というのが業界的にもあって(笑)。それで、もう少し音のダイナミックさ、空間や抑揚を楽しむジャンルとしてハイレゾが出来た感じですかね。


■ 「音楽を携帯する」ことにおいては、消費者は質より量、あるいは手軽さを選んできましたからね。

K: イノヴェーションのジレンマというのが(笑)。でも最近ヘッドホンにお金かける人が増えましたけど、良いヘッドホンで聴き比べると、ローレゾとハイレゾ、あるいはローレゾとCDの音の違いは、素人でも分かると思いますよ。だからフォーマットも買う側も、今は混在している感じです。


■ そんな感じはしますね。「CDなんてじきになくなる」と云われ続けて、それでもまだありますし、レコードだってまだあると言えばありますし。

K: レコードは逆に盛り返していますよね。中高年に限った話ではなくて、若い人でも・・・日本でもHMVがレコードを主軸にしたお店を渋谷にオープンしたとかありますから。ただ、今ってLPの輸入盤が3,000円以上しちゃうんですよね、私たちの若い頃は900円とかだったのに。音としては、昔のレコードの方が良い音はすると思いますけど。


■ 1989年から現在まで、何千枚と様々な音楽のマスタリングをされてきた小泉さんから見て、ポップ・ミュージックはどう変わってきましたか?

K: 昔は演奏する人が生楽器を奏でて作る音楽というのが、比率的には多かったんですけど、今はどれかが打ち込みですよね。ドラムが打ち込みだったり、歌声だって機械だったり。音から人間の度合いは減ってきましたよね。ロック・バンドでも全部が生楽器というのは、曲としては減っているんじゃないですかね。


■ それはデジタルの普及や技術の進歩によって?

K: それもありますし、制作費の問題もありますよね(笑)。今は無料で音楽が聴けますし、みんなそれに向かっていますけど、そうすると作る側も作れなくなりますよね。だから安く済ませよう、となるわけで、聴く側がそれを解っていないというのは、残念なところです。制作側としては、対価がないと作れないんですよ。だから、ちゃんとした音楽を作るから、ちゃんとお金を払って下さい、というところで、良い関係を作れたらいいんですけどね。


■ 日本のポップスのこれからについては、どうお考えですか?

K: ・・・私的には悲観はしていないというか、ようやく悲観しなくなってきたんですよ(笑)。良くない方向に行っているんじゃないかな、と思いながらやってきたことは確かなんですけど、最近新しい兆しみたいなのも感じますし。結局は人間力に掛かっていると思うんですよ。だから盛り返す人が現れるんじゃないか、まだまだ分からないぞ、と思っています。



インタビューと文:三坂陽平