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日本のクツ
「ベンチ・メイド」CEO
大川 由紀子
< 2014年10月28日 >
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「自己実現」という言葉がある。主な意味は、夢を叶えるだの、願ったことを具現化するだのといったものだが、個人的な意見で言えば、魂のない人間のたわごとと言う気がする言葉だ。願ったことを現実にする? そんなの当たり前だろう、と。心に思ったことを現実の言葉やアクションに変換する、そのための理性や肉体だろう、と思ってしまうのだ。それが失敗するか成功するかは、結果論に過ぎないはず。
靴の本場・イギリスにて靴作りの職に8年以上就いていた、「ベンチ・メイド」の大川由紀子さん。彼女はビスポークの技能と精神をイギリスで体得し、日本でその再現と発展を試みてきた。日本は靴作りというところでいえば、後進国もいいところ。けれど彼女は自分の思った通りの道を邁進してきた。それは、野暮な言い方をすれば「自己実現」たり得るはずだ。以下の大川さんへのインタビューは、彼女の魂の軌跡でもあると思う。
「ベンチ・メイド」CEO 大川由紀子さん
ホームページ: ベンチ・メイド
所在地: 〒157-0066 東京都世田谷区成城6-5-25 第一住野ビル408号
電話: 03-3484-6133
■ 宜しくお願いします。まず大川さんが靴作りの道を行こう、と思われた、そもそものきっかけから教えて下さい。
大川由紀子(以下、O): よく訊かれますけど、子供の頃から好きだったからです。短大卒業してすぐに日本でも靴の会社で働いてみたりしたんですけど、あたしが思っている靴作りではなくて。当時はみんな工場生産でしたし。あたしは本当に靴といえばジョン・ロブの靴、ハンドソーンの靴というイメージがありましたので、それを作りたいと思い、イギリスに行きました。
■ イギリスでは、ジョン・ロブに就職して靴作りの経験を積まれたわけですが、日本人が海外の伝統あるビスポーク・シュー・メーカーに就職するのって、単純に難しそうですけど、実際はどんな感じでした?
O: んー、ビスポークに興味を持っている人が世界的にもいない時期だったというのもありますし。あたしカレッジに行ってたんですけども、「将来ビスポークで働きたい」って言ったら、先生もビックリしたくらいで。カレッジとかも、デザイナーになりたいって子の方が多かったですね。
■ 珍客が来た、状態ですか(笑)。ジョン・ロブには学校の斡旋とかで?
O: いえ、カレッジに入って半年くらいの時、ジョン・ロブの社長に「ただ働きでいいから働かせて下さい」って手紙を書いたら、丁度欠員のある部署があるから、じゃあ、バイトで、と。木型や靴磨きや、頼まれればなんでもやる感じで1年半くらいやって、卒業の時にマネージャーから「就職しないか」って誘われたから、二つ返事で(笑)。
■ 逡巡なく、と。
O: イギリスだと就職希望者が入りたい会社の門を叩いて、ワーク・エクスペリエンスとかアルバイトという期間があって、「この会社に入りたい」「この人を雇いたい」っていう双方の意見が一致したところで入社するんですね。
■ それは念願叶って、って感じですよね。逆になぜそこを辞めはったんです?昔からずっと憧れて来た職場であるにもかかわらず・・・
O: 家庭の事情もありましたし。クリッキング(革の裁断)はマネージャーの立場になって、アッパーはプロとしてずっとやってきて、木型とメイキングなんて学生の頃から一人の職人にずーっと付いて習って・・・十年で大体自分の線とか見えてきましたので、もう良い時機かな、と。
■ イギリスだと、ある程度したら辞めて独立するのがフツウ、と?
O: 違います。向こうだと分業制なので、例えば五年くらいで一人前として認められて賃金が出る、そしたらみんな自宅でセルフ・エンプロイ(自営業)っていう形になるんですね。ロンドンには今他に二つビスポークの店があるんですけど、ロブで働いた人は、そのどこででも働けます。だから計三つのトコから仕事を取って、作って渡して、っていう・・・
■ でも大川さんは、イギリスを出て日本に帰ってきて、靴作りを今日に至るまでされていますよね。ぶしつけな質問ですが、なぜ日本に?