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■ 3月31日から4月29日にかけて、時計をフィーチャーいたします。







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■ 今回、『のび太の日本誕生』をリメイクされたわけですけど、『ドラえもん』って原作の完成度が高いじゃないですか。だからこそ時代を超えて、今なお愛されているんでしょうし。そのリメイクとなると、やはり大変だろうなと思いますが、いかがでしたか?

Y: リメイクするって時は、まず原作の穴を探すわけですよ。でもほとんど穴が見当たらないし、旧作も今のヴィジュアルと近いので、どうリメイクするのかは、企画の段階で結構悩みました。ただ今回は、作品の核となる部分が描けていれば、多少物語の骨格を変えてもいいと思いました。というのも、『新・大魔境』の時におおむね原作通りに作ったんですが、やはり一度(旧作を)観た方からすると、新鮮味が無かったようなんです。原作通りで素晴らしいと褒めてくれる方もいたんですが、こちらの想定したリアクションしか返ってこないのが、作り手として物足りなく感じたのも事実です。


■ 観客の「想定外」の部分も、今作には盛り込まなくては、と?

Y: だから、原作をどう活かして、自分の個性をどう織り込むのかですよね。自分の個性となると、叙情性のデフォルメと言うか、キャラクターの人間ドラマを描く、というやり方になるんですけど。


■ 原作の核となる部分って何だと思われたんですか?


『ドラえもん 新・のび太の日本誕生』
2016年3月5日公開(日本)
Y: 子供たちの自立、成長です。子供が家出するってことは、そうじゃないかと。でも原作だと、物語の途中でそのテーマは解決しちゃうし、物語の最初と最後で、のび太が変わった、成長したとは捉えにくかった。成長の物語では、最初と最後で主人公に変化があるって、凄く重要だと思うんです。だから今回の映画ではそこを大事にしようと決めました。シナリオ会議でも参加者の意見はバラバラでしたけど、そこだけは通そうと。


■ つまりこれはのび太の成長の物語だ、と。

Y: そうですね。親と子供の話とも言えるんですけど、物語の中でのび太がペットを作って育てます。でもそれがある意味、理不尽な形で引き離される。あれは育てる側、親の気持ちをのび太が理解する過程でもあった。つまりこの作品にはのび太とのび太のママ、のび太とペットたちという二組の親子が存在すると気付いたんです。そこをうまく繋げて見せたかったんですね。


■ ああ、だからですか。今作ののび太のママって凄く人間味があるじゃないですか。いつもは教育ママの象徴みたいな人なのに、今作では葛藤や憂いが見える。ホレてまうやろー、って思いました(笑)。

Y: 人間味があるっておっしゃって頂けるのは嬉しいです。自分や友達の実際の親子関係も反映はしたんですけど、やっぱり親は、子供が家出したら心配するし、自分の育て方が間違っていたのか、とか思うじゃないですか。シナリオ会議の段階では、「子供のアドベンチャーに親が出てくるのはどうなんだ」って意見もあったんですけど、映画だから一歩踏み込んだ人物描写にしたかったんです。



八鍬新之介
(アニメーション監督)

北海道生まれ。
2005年、シンエイ動画へ入社。
同年、『ドラえもん』制作班へ配属。
2014年、初の監督映画作品
『ドラえもん 新・のび太の大魔境
~ペコと5人の探検隊~』公開。
■ その縦軸が物語上、重要ですからね。同じ親でも、のび太のパパの方がそんなにフォーカスされていないのは・・・

Y: 原作を活かした形ですね。のび太のパパは結構おおらかな人なので。やっぱり子供にガミガミ言う役は、のび太のママの方ですし。


■ 今回はのび太の両親の、いわゆる夫婦の会話も描かれていましたが、あれで一気にリアリティが増しました。七万年前というありえない非日常での冒険なんだけど、あのシーンがあることで、このアドベンチャーは日常と地続きなんだな、と感じると言いますか。

Y: 日常の感じって重要なんですよ。『ドラえもん』で大事なのは、必ず最初と最後には「日常」があることだと思います。のび太たちの日常が描かれているからこそ、観る人が感情移入しやすい。どれだけ冒険の世界やひみつ道具で「非日常」を演出しても、日常が描かれていないと、観る人は不思議だと感じないでしょうし。と言っても、「ドラえもん」という存在自体が、もうすでに非日常と言うか、ありえないんですけど・・・(笑)