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■ 3月31日から4月29日にかけて、時計をフィーチャーいたします。







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■ AVが今後、形骸化した状態から脱却するとしたら・・・

Y: 警察や官僚の単なる天下り先ではない、ちゃんと性の本質に精通した、公的な第三者機関が発足して、そこが国内に流通するAVを審査するようなシステムになれば良いんですけどね。AV出演者の人権がどうとか言う人もいますけど、そういうことより、まず作品の中身をどうにかしないといけない。今のAVは「人間」を描いてないんですから。


■ 「心」の部分を描いてないですからね。

Y: 面接軍団なんかそうですけど、性と真剣に向き合っている男優はいます。でも良いセックスが出来るかどうかじゃなく、監督の指示通りに動ける男優が、業界的には重宝されてると思います。もちろん、監督で言えばカンパニー松尾とか、ちゃんと性に向き合ってる人材もいますけど、今はもう、テーマとか作家性を持った監督は、ほとんどのメーカーからしたら「一昨日いらっしゃい」ですよ(笑)。


■ システマティックというか、機械の世界ですよね。今は様々な分野で人間が必要とされなくなってきていますが、性の分野もそんな感じに・・・



Y: そういう傾向にありますね。だからダッチワイフやラヴドールなんかも、進化してもっと精巧なモノが出来たら、実際の女以上のモノになります。これは産業として成り立ちますよ。


■ AV女優や風俗嬢の一定の行動パターンをAI(人工知能)に組み込めば、充分あり得ますよね。しかし怖い世界ですね(笑)。それは「快」だけを求めた結果、人間が要らなくなるということですから。

Y: 「快」だけを求めるというのは、たとえばタバコや酒、薬物に依存するのと一緒なんですよ。心は満たされない。満たされないから、また次を求める。自分の中の空虚感を「快」でまぎらわす。酒や薬物で心が満たされれば、中毒や依存症にはならないですよ。つまり、セックス依存症が増えているわけで、それは「相手」を求めていないということなんです。


■ 本来なら誰か好きになった人がいて、その人とのセックスとなるところが、セックスの「快」が第一義になってしまっている、と・・・

Y: だから「セフレで良い」となるんですね。セフレが数人いる、結婚しててもセフレがいる、体験人数にしても何十人、何百人なんて子がいるのも、もう僕は現場では驚かなくなってきてる(笑)。


■ 「相手」を求めずに「快」ばかり求める、ヤリマンばっかり(笑)。まぁ、事情は人それぞれにあるんでしょうけど。

Y: ニワトリが先かタマゴが先か、になるけど、空虚なAVがここまで溢れたのは、そういう「相手を求めない」子が増えたからでもある。だから僕は、少なくともそこには加担したくない。自分が作るものに関しては、心を大切にしたい。僕の作品にメッセージがあるとすれば、「こういうセックスをしようよ」とか、「こういうセックスはやめような」です。



■ 実際、作品中で監督は「相手の目を見ろ」と、繰り返されていますからね。1人の人間として相手に向き合う大事さと言いますか。でもそれができない、それをする意味が解らない人達が増えている。

Y: 本能が未成熟なんですよね。オーガズムを追求する中で解ったことですけど、本能が成熟、あるいは解放されると、対人的感性が育つし、もっといくと「母性」が自己の中に芽生える。これは、男でも「母性」と呼べると思います。

この「本能の成熟」には、幼少期のスキンシップや愛情のやり取りが不可欠なんです。でも核家族化や地域社会の崩壊なんかで、そういうことを経験せず、本能が未成熟なまま大きくなった子たちがたくさんいるんですね。

本能は「快」を求めるけど、ある程度、成熟したら卒業するものなんですよ。だからセックスも卒業していくものなんです。熟年やジジイにもなって、若い女の子に執着して、セックスの「快」から抜け出せないなんて、「いつまでやってんだよ」って言いたくなる(笑)。


■ 「快」の対象が幼稚なままと言うか。確かに日本社会全体から、母性とか優しさ、慈しみ、育む気持ちって失われている気がしますね。子育て自体、マニュアルに頼る人も多いですし・・・

Y: だから昔は性を追求するのが面白かったけど、それより今は、知ったことを伝えていかなきゃいけないと思って、監督をやってます。このままじゃマズいだろう、と。僕にも孫がいますけど、この子たちが大きくなった時、(日本の性の状況は)どうなってるんだろう、と不安になりますから。




インタビューと文: 三坂陽平
取材協力: 株式会社アテナ映像