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■ 1月31日から2月28日にかけて、「美術」をフィーチャーします







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編集余談

サブスクリプション━━という単語を聞いたとき、英語に多少なりとも馴染みのある方なら、恐らく思いつく日本語訳は「寄付」であろう。実際、英和辞典でも「寄付」が(訳語候補として)真っ先に挙げられている。ところが、現在(二〇二〇)の音楽でサブスクリプションと言えば、どうやら「定額で音楽が聴き放題になる配信サーヴィス」を指すらしい。その道に詳しい方には「何を今更」と言われるかもしれないが。

私は、ポップスの記事なんて叙したりする割には、そういう方面に全く明るくないのだが、それはともかく、サブスクの仕組みは(個人的な解釈でいくと)以下のようなものである。

サブスクの前提は、お手持ちのガジェット(ウォークマンなりスマホなり)がインターネットに繋がっていることである。ネット上にサブスクのサーヴィスを提供するホスト━━アマゾン・ミュージックなり、アップル・ミュージックなり━━がいて、利用希望者はいずれかのホストを選び、そのホストに「月々いくら」と決められた金額を毎月こつこつと貢ぐ。貢いでいる間は、ホストが所有している楽曲データに、いつでもアクセスできる。利用者は、お手持ちのガジェットを通じて、その楽曲データを何回でも再生できる。

これがサブスクであるらしい(合ってるよね?)。

サーヴィスと謳うからには、当然、ホストは大量の楽曲データを保有していなくては話にならないが、そのホストと提携していない歌手もいる。伝え聞いたところ、歌手に配給される利潤は、一回再生されたら一円程度であるらしい。たとえば、一ヶ月間にポルノグラフィティの楽曲が、全部合わせて五万回再生された場合、ホストからポルノに五万円振り込まれると。これがサーヴィスである以上、優先されるのはホストの儲けで、次に通信会社。歌手は後回しの構図であろう。そんなビジネス・モデル、利益にならないよ。そう見込んで提携しない歌手がいても、おかしくはない。

ところが、サブスクを「次世代の音楽の聴き方」と信じて疑わない、原理的な進歩主義者みたいな聴き手もいるらしく、彼らはサブスクと提携しない歌手達に「さっさとサブスク解禁しろ」と圧をかけたり悪口雑言を並べたりに余念がないらしい。なんか音楽の楽しみ方、間違ってないか? と思う。

サブスクは音楽の聴き方の一つで、つまりオプションの一つで、それ以上でも以下でもない。そういうサーヴィスはあって、しかし、それが主流になることは、恐らくない。サブスクの前段階には「着うた」や音楽配信などが喧伝されたが━━〇〇年代中盤のことだったと記憶している━━、そういうのとは無縁な歌手や聴き手はいくらでもいた。そして実際、音楽配信がCDやレコードに取って代わるという状況は、ついに訪れなかった。

私個人のことを言えば、サブスクなんて使ったこともないし、恐らく使うことのないまま、サーヴィスが下火になっていくと思っている。なにしろウォークマンもスマホも持っていないので、サーヴィスを享受する余地がない。

サブスクにはプレイリスト機能があって、それで「若い子達がサブスクを使うのは解る気がする」とは思う。ホストが所有している楽曲群の中限定ではあるが、お好みのリストが作って━━たとえば「ドライヴに向いている楽曲TOP15」とか「冬に聴きたい曲ベスト20」とか━━、それをSNS経由で共有できる機能である。

今の三十代から五十代は、それをカセット・テープやMD、あるいはCD-Rでやった世代であろう。オリジナルの「マイ・ベスト17」とか作って、友達や好きな子に「ちょっと聴いてみて」と渡したことのある人、渡されたことのある人は、その世代には多いのではないかと思う。そんなもの、渡されたほうは(たいてい)苦笑するしかないんだけど、若い身空には、そういうお察しはなかなか難しかったりもする。まぁそういった「編集作業を通じて満たされる自意識」はある種の若者の通過儀礼かもしれず、それを今の若い子はサブスクで再演しているのかもしれない。それなら「解る気がする」のである。

だからして、サブスクを否定する気はない。そのユーザーにしても、別にどうこう言うつもりはない。ただ私は、音楽家に「さっさとサブスク解禁しろ」と圧をかけることが、音楽家の制作活動を活性化するという考えには与しない。だから「なんか音楽の楽しみ方、間違ってないか?」と疑義を呈した。サブスクというサーヴィスを絶対視して音楽家を二の次とするのは、本末転倒ではないか? と。なんでそういうクレーマーは、サブスクのホストに「歌手が積極的に参入したくなる仕組み作りをしろ」と要求しないのだろう?

私は各ホストや通信会社にも特段の義理はない。だから「俺がサブスクを使う必要はないな」にもなる。まず、外で音楽なんか聴かないし。それにはっきり言って、何かが「主流になる」って、もうないような気がするな。若い歌手は若い聴き手に支えられるはずで、そのプラットフォームとしてサブスクが最適と考えるなら、そうすればいいのだけど。


(三坂陽平)