編集余談
先月は私生活でいろいろとあって、ごたごたと忙しかった。もちろんそれらは私事なので、ここにそのあれこれをつらつら書き連ねるなどはしない。ただ、忙しさに追われる日々の中で、ふと空いた時間にテレビを点けてあてどもなく観ていると、なんだか(忙しくなる前の)七月とそんなに変わってないんじゃないかと錯覚することがある。
私が暮らす大阪に限っていえば、九月中盤の今も、二ヶ月前と同様に「三十五度前後の猛暑」が連日続いている。少なくともテレビの天気予報ではそう報じられている。正月に地震に見舞われた能登半島は、復興どころか「復旧」にも至っていないし、ロシア―ウクライナ間の戦争も続いている。兵庫県の知事によるパワハラ疑惑も依然として決着を見ていない。七月も今も。
むろん、七月にはなかった話題もあるといえばある。テレビや新聞では自民党総裁選のニュースが毎日かまびすしいと仄聞する。が、個人的にはこのネタはあんまり関心を持てない。だってそもそも投票権がないんだから。与党総裁は自動的に次期首相になるわけだが、自民党内の誰が首相になったとしても、ろくなことにはならない。それは過去の実績が証明している。まともな頭の人はそもそも自民党で政治家として活動しようなんて思わないだろう。杉村太蔵が立証したことは、それであったはずである。
テレビや新聞ではあまり言われないことらしいが、自民党の主目的とは「政権与党であること」である。それが第一で、彼らにとってのすべてと言っていいだろう。与党であるべく、他党を圧倒する党員数を擁していることが彼らには肝心なのであり、その要諦は言わば「質より量」である。だからそこでは不可避的に「悪貨が良貨を駆逐する」が頻繁に起こる。なにも寡頭政治を推奨するではないが、質より量を採ればそうなるのが自然である。だから私は「まともな頭の人はそもそも自民党で政治家として活動しようなんて思わないだろう」と推し量るわけだが。
時々、「日本には自民党以外に政権担当能力がある政党がない」と訳知り顔で語る人がいるが、私にはこれが解せない。というのも、二〇一〇年前後、当時の民主党が政権与党になり、自民党は野党になった。覚えておられる方も多くいるだろう。でもそこで、少なくとも政治というステージで国家的瓦解は別に起きなかったと私は記憶しているからである。
二〇一〇年前後の世界では、中国も北朝鮮も日本に侵略を仕掛けてくるなどはなかったし(在日米軍がある以上、日本と正面切って戦争することは、アメリカと戦争をすることにもなるから、そんな無意味な自爆行為はどの国もしないだろう)、市場において円や株がドラスティックに暴落するなどもなかった。大規模な震災や原発事故は起きたけれど、それらは民主党が人為的に仕掛けたものではない。仮に自民党が政権与党であっても起きたであろう話である。
なのになぜ民主党は「政権与党に相応しくなかった」と評されるのか?
当時の民主党は、乱暴に言えば、小沢一郎を軸に成立していた政党だった。だから小沢と他の民主党員との仲が決裂したら、それがダイレクトに政党としての分解に繋がった。今はどうなのかよく分からないが、当時の小沢はおそらく「異なる立場の人同士を束ねる力」があった人で、そういう接着剤的な役割を果たすキーマンが、民主党と決裂してしまった。だから民主党は、ノリづけが剥がれた絵本のようにばらばらと、まとまりを欠いて自壊するに至ったのではあるまいか。
そういうまとまりの悪さゆえに、国民から「政権与党に相応しくない」と評価されることはあり得るだろう。日本人というのは、良くも悪くも、調和を尊ぶ人が多いとされる。だったら「政党としての方針はどうあれ、とりあえず政権与党である間は、ウソでも盤石な体制であると国民に示してくれよ、でないと安心して任せらんないよ」と思う有権者が多くいたとしても、そんなに不思議ではない。
と、そうなるとこんな疑問が頭に浮かぶ。今の自民党って、当時の民主党と同様の分裂状態にあると言えるのではないか?
自民党総裁選というのは、そんなに大きなニュースになる話題ではなかった。二〇〇〇年に現職の総理大臣=小渕恵三が病に倒れた際も、当時幹事長だった森喜朗が後任として総理の座に就いたが、なぜ森が選ばれたのかはまるで明かされず、その様子は「密室政治」と糾弾された。しかし、密室だろうとガラス張りだろうと、自民党の総裁選など自民党員以外には投票権や選択権が与えられていないのだから、一般国民にはどうしようもないという所はあるだろう。だから過去、総裁選はそこまで話題にならなかった。
ところが打って変わって今回は連日ニュースを賑わしているという。どうしてそこまで話題になるのか? 聞くと、総裁選に名乗りを上げたのは過去最多の九人であるという。この多数の立候補が暗に何を示すかといえば、政権与党の自民党が過去にないほどの分裂状態にあるということだろう。だからテレビや新聞は連日このネタを大々的に伝えるのではないか。
かつての民主党と同様の分裂状態にある(と目される)自民党を、国民は与党として歓迎するだろうか? 私には分からない。一口に国民と言っても、考え方は人それぞれだから。もし日本人の多くが「自民党に問題があることは承知しているけど、現状維持以外の選択肢は考えたくない」という臆病な思考停止に陥っているとすれば、自民党が(仕方なしに)選ばれるのかなとは思うけれど。
(三坂陽平)