編集余談
旧聞に属する話ではあるが、自民党の高市早苗(一九六一~)が、本邦初の女性総理大臣になり、これまた本邦初の「維新の会との連立政権」を発足した。間違いなく二〇二五年の日本を代表する大きな出来事の一つではあろう。
とはいうものの、個人的には、これらの出来事自体は特にどうというほどのことではないと思っている。自民党の党是は「政権与党であること」であるからして、女性議員を首相にした方が国民に対してのアピールになる、石破政権時代にガタ落ちになった評判をいくらか回復できると党員達の多くが見込めば、党の総意としてそれをするだろう。野党との連立だって、九〇年代からいくらでもあったことだから、今さら取り立てて驚く筋もない。なんとなれば、九〇年代半ばにそれまで犬猿の仲とされてきた社会党(現社民党)と連立を組んだ時の方が、人々はびっくりしたのではないか?
要するに、自民党には確固たる政治的理念や思想的支柱などはさらさらなく、政権与党にしがみつくためなら大抵のことは無節操にやるのである。だから、「自民党の党是は『政権与党であること』」だと前述した。
では高市首相をどう評価するかだが、これについての私の答は決まっている。評価に価しない。断っておくと、私は彼女とは一面識もないので、彼女がどういうパーソナリティーなのかは杳として分からない。たとえば趣味などの話であれば、もしかして気が合うなどもあるかもしれない。ただ、あくまで首相として、政治家としての彼女は、評価に足る人物ではないということである。
理由は簡単で、私は彼女がこれまで政治家として行なってきたこと、あるいは今年成立した高市政権から、一切の利益を得てないからである。彼女が首相になったからといって、国民生活に良い変化は何も訪れていない。コメをはじめとする物価高は沈静化する気配もないし、日本経済上のスタグフレーションもおさまりそうにない。国民のほとんどが必要としないマイナンバー・カードを無理に押し付ける施策も、前政権から引き続いている。先月(十一月)に現金給付が決定した子育て世代がどう考えるのかは分からないが、私は独身なのでこれまた何の利得もない。
つまり、端的に言って私には高市政権を支持する理由がないのである。
これは多分、国民の過半数が同様だと思う。だが不思議なことに、ネット上では高市政権を無条件に称揚する匿名のアカウントが溢れ、高市を揶揄したり、彼女に物申したりする著名人が、口汚く中傷される事例が相次いでいる。芸人のキンタロー。が高市のモノマネをした際には「炎上」が起きたとかで、それがニュースにもなった(らしい)。
リベラル系の論客は、これを「ネトウヨ勢が高市を盲目的に崇拝している」と見ているみたいだが、私は「ホントにそうかな? それだけかな?」と思うので、ここではその話を広げたい。
ネトウヨとは「ネット右翼」のことである。極右思想にかぶれてネットいきりに走り、自分とは異なる政治的見解を述べる他人を攻撃することにアディクトする反社会的な匿名アカウント。それがネトウヨだと言っていいだろう。
安倍政権が続いた二〇一〇年代にネトウヨはネット上で存在感を出した。二〇一四年末にサザンオールスターズが開いた年越しコンサートの演出の一部が、彼らから「反日」と攻撃され、メンバーが謝罪をするまでに追い込まれた例は有名だろう。とはいうものの、安倍政権が幕を引き、政権を牽引した安倍晋三元首相が射殺された二〇年代序盤になると、この勢力は下火になり、岸田政権も石破政権も、彼らから厚い支持を得るには至らなかった。それが高市の代になって急に息を吹き返したというのが、私にはちょっと引っかかる。
二〇年代序盤、ネトウヨに関する新事実がいくつか浮かび上がった。ここではそのうち二つを取り上げる。一つは「Dappi」という匿名アカウントの話である。自民党や維新の会を持ち上げる一方、日本共産党や立憲民主党の議員を中傷し続けたこのアカウントは、実は自民党と取引のあったワンズクエストというウェブ・コンサル会社が運営していたことが二〇二一年に発覚した。
もう一つは「黒瀬深」の話である。こちらも二〇一〇年代当時、ツイッターのフォロワー数が十数万を数えた、ネトウヨとして名をいくらか馳せたアカウントであったが、同じく二〇二一年に身元が割れた。大阪出身の当時二十代半ばの男性が運営していたとのことで、ネトウヨとして活動した動機は不明。彼に中傷されてきた立憲民主党の議員が彼を名誉棄損で訴え、勝訴したことにより「黒瀬深」は事実上消滅した。
これらの件を受けてだろう、ネトウヨ勢は意気消沈、そのまま下火になった。ネトウヨなんてやっても割に合わないと痛感し、怯んだのかもしれない。弱い犬ほどよく吠えるとは昔から言われてきたことだが、弱い犬だって学習能力は多少なりともあるはずである。高市政権が樹立しても、「ここで調子に乗ってうっかりネットいきりをしたら、誰かから訴えられていろんなものを失うかもしれない」というためらいが、ネトウヨの頭にはよぎるだろう━━学習能力が彼らにあれば。
である以上、高市政権をむやみに持ち上げる攻撃的なアカウントが個人によるものとは考えにくい。いや、もちろん中には個人運営のものもあるとは思う。学習能力のない人もいなくもないから。でも法人や政党など組織ぐるみで運営されているものも多いのではないか。そういう可能性を私は疑っている。
糸を引いているのは誰か? 私は情報屋でもなければ週刊誌の記者でもないので、知らない。ただこういう場合、攻撃的であるネトウヨ勢が(攻撃の対象にしても不思議ではないのに)攻撃していないのは誰か、そこを探るのが推理の定石ではある。
十二月初旬現在、表舞台で高市首相に対して強気な姿勢を崩さず、それでいて「高市信者」から一切バッシングされていないのは誰か。私が見る限り、連立相手の維新の会が、それに該当する。連立を組んでいるからといって、自民党支持層が連立相手まで支持するわけではない。自公連立の時代、公明党を嫌う自民党支持者はいくらでもいた。にもかかわらず、なぜ「高市信者」は維新の会を組織的に「バッシング対象から外している」のか?
紙幅も尽きたので、これ以上の推量は控えよう。これから先いろいろな意味で冷え込みが厳しくなると思いますが、皆さんもお身体ご自愛の上、できるだけ楽しく、できるだけ健勝に年末をお過ごしください。ではまた。
(三坂陽平)