蕎麦(そば)。奈良時代以前には確実に日本にあったとされ、今日も日本各地で様々なヴァリエーションで愛されるポピュラーな食べ物だ。また蕎麦は、古くより農山村における持て成しの料理の一つでもある。日本人が大晦日に蕎麦を食すのもこの辺りの名残ともいえようか。
蕎麦粉、水、そして粘り気を出すための「ツナギ」。これらが蕎麦の三大要素であるが、このツナギに小麦粉などではなく、大豆を使用したものが、青森に代々伝わる津軽そばである。そしてその津軽そばを代々受け継ぐ大森食堂の歴史を描いた映画が、今回紹介する『津軽百年食堂』(2011)だ。
主人公を演じるのはお笑いコンビ・オリエンタルラジオの中田と藤森の2人。大森食堂の初代(明治時代)を中田が、そして四代目を藤森が演じる。ために、物語中時代は前後する。しかし今作の根底に流れるテーマを表現するには間違いなく必要な手法であると言える。町の小さな食堂が百年続くというのは、まして青森という地方においては、現実には難しい。しかしそれを実現させる「自分達の創造する味へのこだわりと愛着」と「郷土愛」、そして「家族愛」。これらが明治と平成の、二つの時代の往来の中で丹念に描かれてゆく。
実際のロケも青森の弘前市・八戸市などで行なわれたため、青森の名所がそこかしこに現れる。東北の春を、青森の名所ともども味わえる映画だ。また、主人公の2人も、青森の素朴な青年を見事に好演している。いろいろな方に観て頂きたいが、特に大豆アレルギーの人は津軽蕎麦の実際の摂食は難しいだろうから、是非、この映画を観る事で津軽蕎麦を堪能して欲しい。