『お葬式』
暗いテーマを明るく切り取った、伊丹十三監督の初監督作品
「死」や「裏切り」など、人なら誰しも持つカナシミの中に滑稽さを取り込む。それはブラック・ジョークと称される類のものであるが、それとはまた違うテイストで「人の死」という、ともすれば暗く重いものになりがちなテーマを、笑いを織り交ぜ取り上げた映画がある。故・伊丹十三監督の初監督作品『お葬式』(1984年)だ。
主人公夫婦が妻の実父の死に際し、葬式を執り行う悪戦苦闘ぶりを描いたものであるが、実に見事なのは、単なる葬式を媒体とした共感を呼ぶ(「お葬式ってこういうの、あるある」と観客に思わせるようなもの)類の映画に留まらず、日本人の式典に対し無頓着な割には型にはまりたがる性を丁寧に描写し、後味の良い滑稽さを与えてくれる。
無論のこと、笑いだけではない。約2時間の鑑賞後には、伊丹監督の日本人への、ひいては人間への独特の愛情表現が心に沁み入っていることだろう。
いわば悲しいのに楽しい。そういった不思議な感覚をもたらしてくれるのだ。そしてそれは日本人なら葬儀というものに際し、誰もが抱く気持ちに類似しているのではなかろうか。
なればこそ大ヒットを記録し、今尚コアな映画ファンからは「初監督作品にして最高傑作」と呼ばれる所以であろう。
余談ではあるが、劇中、端役ではあるがサングラス姿ではない井上陽水が出演しているので、興味のある方は探してみてほしい。
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