『解夏』
人生と病苦を淡々と描く、滋味溢れる傑作映画
「解夏(げげ)」という言葉をご存知だろうか。仏教用語のひとつで安居(あんご)と呼ばれる修行があるが、それは仏教徒たちが雨期になると通常の外を回る修行(遊行)をやめ、一定期間一つの場所にこもるというもの。雨期になると多くの動植物が活性化するため、それらへの無用な殺生を防ぐための修行とされる。その安居の終わりが「解夏」と呼ばれるものだ。
しかし仏教界の風習が今回の眼目ではない。二〇〇四年一月に公開された、さだまさし(歌手・小説家)の小説を映画化した映画が『解夏』なのだ。
とはいえ、内容が僧侶の話というのではない。視力を徐々に失っていくベーチェット病という原因不明の病におかされた青年教師の物語だ。と、こう書くと「なんだ、病気系の泣ける映画か」と早合点されるかも知れない。だが本作は世間で云われる泣ける映画とは一線を画すものである。そんな劇的かつ大袈裟なタッチでは物語は描かれない。淡々としている。それゆえに無常感さえ伝わるほど。
原因不明の難病におかされた隆之は、悩んだ末に職も恋人も捨て故郷・長崎(作者・さだまさしの故郷でもある)へ帰る。最後に目に焼きつけるべきは故郷としたのだ。が、恋人であった陽子は隆之を追って長崎に来てしまう。そんな折、二人はとある寺社に訪れ、一人の老人と関わることになる。
彼が病におかされ視力を失うまでのプロセスを修行に見立て、やがて訪れる失明の時、その時こそ、隆之にとっての解夏(=修行の終わり)なのだということだ。
長崎の景色や淡々としたタッチが清々しさを醸し出し、かつて日本人が持っていた本質をも的確に描写したかのような、良作である。
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