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『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』
「今を生きるのは」、その答えはこの映画にあるのかも

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21世紀の初め、「20世紀博」というイベントが世の大人たちの心を鷲づかみにし、子供の存在を忘れるほどに熱狂させた。そこには昭和の時代を再現した催し物が盛りだくさん。大人たちは、すぐそこにある未来よりも懐かしい過去に魅力を感じてしまっていたのだ。子供たちは、そんな大人たちを「現在=現実」へ連れ戻そうと奮闘する・・・そう、アニメ『クレヨンしんちゃん』劇場版シリーズの不朽の名作、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)のシナリオです。


『クレヨンしんちゃん』といえば、その下品さと大人の矛盾を突く展開の多さゆえに、親が子供に見せたくない番組の代名詞として君臨してきたシリーズですが、この映画はそんな印象を逆手に取ったような手法で、「大人から子供まで楽しめる映画」を希求して作られた映画なのです。

観客の多くは当然小さい子供、そして保護者たち。つまりファミリーがメインです。そこで家族の軋轢と絆を、『クレヨンしんちゃん』という大人なら誰もがイロモノ扱いする映画世界で描いた本作は、子供たちはもちろん大人たちの心にも深く突き刺さったようです。文化庁の主催する、2006年までの日本のメディア芸術を体系化する「日本のメディア芸術100選」にて、アニメ部門に選出された25作品のひとつにランクインしたほどですから。

この映画ではさまざまな昭和のシーンが、丁寧に再現されています。それは古き良き日本の風景であり、大袈裟に言えば、幼児ですらデジャヴを感じるほど、日本人のDNAに染み込んだ原風景といえるかも知れません。

思い返せば、子供の頃や青春時代など毎日が平凡でありきたりの毎日だったと、誰もが思っていたはずです。しかし、歳月の経過と共に、実はその何気ない日常が掛け替えのない輝きを伴っていたことを痛感します。

とはいうものの、そんな郷愁感はこの映画が訴える主眼ではありません。それだけでは、大人たちのマスターベーションにしかなりませんからね。ちゃんと過去を認め、その輝きを忘れずに前を向いて今を生きる。そういったエネルギーがたぎっているからこそ、老若男女問わず、この映画は観る者の心を揺さぶるのでしょう。

ラストのシーンで主人公の野原ファミリーが、敵の計画を阻止するためにタワーを駆け上がるシーンがあります。その躍動感はそのまま「現在をひたむきに生きる」フレッシュネスに満ちている、他に類を見ない絶佳たる描出なのです。



作品情報

・監督: 原恵一
・脚本: 原恵一
・原作: 臼井儀人
・声の出演: 矢島晶子、ならはしみき 他
・配給: 東宝
・公開: 2001年4月21日
・上映時間: 89分







 

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