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『となりのトトロ』
それは、失われた日本の夏を求めて

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今年の夏も暑かったですね(毎年の決まり文句)。各地で最高気温の記録は軒並み更新され、山梨県甲府では最高40・7度、高知県四万十川では国内最高の41・0度をマーク(重症の病態並みの温度です)。西日本では、昭和21年の観測開始以来、夏平均気温(6~8月)が最高値でした。

日本の夏はこんなに住みにくいものだったのでしょうか。私たちに、古き日の日本の夏の輝きを、懐古趣味だけではないエンターテイメントとして伝えてくれる映画作品があります。それがスタジオ・ジブリのシンボルにもなっている『となりのトトロ』(1988)です。


昭和30年前後のある夏の日、日本のどこか、草壁家は引越しをします。引越し先の一軒家は子供たちいわく「ボロ」であり、大きな森を背に不気味さをたたえ佇んでいます。草壁家は3人(父と娘2人)でそこで暮らしていきます。隣人も人柄が良く、夏の畑で近隣の農作業を手伝ったりして、草壁家の人々は平穏な日々を過ごします。そんなある日、次女のめいが庭で不思議な生き物を見つけ、それを追いかけて森の奥深くへと入っていきますが・・・

あらすじ自体は、はっきり言って地味です。まずハラハラドキドキするようなアクションなどありませんし、感動大作という訳でもありません。事実、その凡庸さから制作当時、企画からして難航したそうです。今みたいに「スタジオ・ジブリ」にネーム・バリューがある時代ではありませんでしたからね。配給収入も6億円未満とふるわなかったそうです。

しかし、この映画に出て来るキャラクターは不思議で魅力的なものが多いのもまた事実。タイトルにもなったトトロは、そのぬいぐるみが公開当時66万個以上売れ、2年後にテレビ放映された折の視聴者プレゼントにもなりましたが、その時には200万通以上の応募があったそうです。

また、故・黒澤明監督はネコバスが大変お気に入りだったそうで、「黒澤明が選んだ100本の映画」という企画の折、唯一日本のアニメ映画で『となりのトトロ』だけが選出されました。

とはいうものの、地味は滋味につながるというのか、その物語もやはり魅力的です。それは日本の夏がかつて持っていた瑞々しさや切なさというものを基幹とし、タイム・カプセルのようなものとして、私達の目の前に展開されるのです。

たとえば、主人公の姉妹が井戸の冷たい水と戯れるシーンがありますが、そこには「楽しい」「冷たい」などの情報だけではなく、日本の夏、そのありし日を確かに伝える情感がたっぷりあるのです。ハデではないけれど、だからこその美しさ。それが情景やキャラクターの随所に散りばめられてあり、私たちにいつかの「忘れもの」を優しく届けてくれます。




作品情報

・監督: 宮崎駿
・脚本: 宮崎駿
・原作: 宮崎駿
・音楽: 久石譲
・配給: 東宝
・公開: 1988年4月16日
・上映時間: 88分







 

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