興行的に成功を収めた映画が必ずしも心に刻まれる名画であるとは限らない。これは我々(観客)の間で広く共有されている事実だと思う。大ヒットしているらしいから、この映画観てみようぜ。そう言って誰かと観に行った映画が、何の長所も見出せない凡作であったなんてことは、少しも珍しくない。たとえば『アルマゲドン』なんて、日本だけで興行収入約135億円を記録したれっきとした大ヒット作であるが、いざその感想を求められると、言葉に詰まるという人も多いはずである。
反対に、興行的にはパッとしなかった作品が後の世から名画として評価されることもままある。『天空の城ラピュタ』などはその好個の例として挙げられよう。つまり、映画の興行成績とその内容の充実度は、必ずしもリンクしない。そう言っていいのだろうし、今回の『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』にも、それはあてはまるのかも知れないなと思う。
本作は2003年7月に公開された東宝映画で、タイトルにある通り、テレビドラマとして放送された『踊る大捜査線』の劇場版第2作目である。国内だけでおよそ1260万人の観客を動員し、興行収入は約174億円を記録した。興行成績で言えば同年のナンバー・ワン映画であるし、2020年の今でも、日本の実写映画の興行収入ランキングではトップの座にある。
余談ながら、この2003年は結構ヘンな年で、ポップスの分野でSMAPが「ナンバー・ワンにならなくてもいい」と唄った歌が200万枚以上を売り上げ、年間トップはおろか「21世紀で一番売れたシングル」になったり、養老孟司が『バカの壁』(新潮新書)を上梓して、発行部数435万部以上という「21世紀で一番売れた本」になったりと、何かにつけて「ナンバー・ワン」が生まれた年であった。それは平成15年であり、結果的には「平成」という時代の折り返し点であったが。
話を『踊る2』に戻す。
本作は『踊る大捜査線』の劇場版第2作目であるからして、基本設定は第1作とそんなに変わらない。織田裕二演じる青島刑事を筆頭に、現場の刑事の面々が、現場を軽く見る本庁のキャリア組と相克を演じながら、猟奇的殺人事件、スリ事件などの複数の事件に立ち向かう━━これが本作の概要で、なるほど、設定面では第1作とそんなに変わらない。
ただし、じゃあ感想も第1作と変わらないのかというと、そうでもない。結論から言えば、本作は(前作と違い)ハリウッド映画に通底する「ある構造」を持っていて、そのことに対し、私は「なんでこうなっちゃったんだろうな」と首を傾げるのである。
本作の特徴は何か。真矢ミキ演じる女上司、沖田の登場である。今までキャリア組を演じていたのは、柳葉敏郎や筧利夫など男性俳優陣であったが、今回はキャリアウーマンが劇中に登場し、彼女の指揮下で捜査活動が進められる。彼女は登場早々、不敵な笑みを浮かべ、青島に対し、挑発的なセリフを放つ。前作に出ていないのに、なぜか明らかに前作を否定するような感じで。彼女は本部における明白な権力者で、同じキャリア組である室井(柳葉敏郎)にさえ、命令を下す。
とはいえ、権力者ではあっても完璧ではないから、彼女のやり方は現場の捜査員とうまく噛み合わず、その「ツケ」は現場の女性刑事に回ってくる。そしてその落ち度から彼女は指揮権を剥奪され、捜査本部と現場は新たな体制で物語を進める。
つまり、簡潔に言うと本作は(1)男性メインの集団に何らかの権力(権威)を持った女性が参入し、(2)その女性は集団の秩序を乱し、混乱と困惑が前景化するが、(3)その女性から権威を剥奪するか彼女を排除するかして集団は秩序を回復する━━という「ハリウッド映画によくある構造」を宿しているのである。
たとえば? 枚挙にいとまがないが、1989年公開の『メジャーリーグ』や1949年の『黄色いリボン』などはその典型であろう。
ここでハリウッド映画の歴史や「いかなる歴史的必然からアメリカ人は女性を敵視するのか」を論じると収拾がつかなくなるので割愛するが、ハリウッド映画に散見されるある種のミソジニー(女性嫌い)が本作にも伏流していることは確かだと思う。なにしろ、混乱を巻き起こすのが女性なら━━ご丁寧にも、彼女を演じるのは宝塚歌劇団の元トップ・スター、真矢ミキである━━、そのツケを払うのもまた女性なのだからして(つまり、本作は「女がトラブルを惹き起こして、その代償を他の女が払う」話なのである)。
私は映画人ではないので、制作陣がどういう経緯で本作にミソジニー的要素を盛り込んだのかはわからない。ただ、前作まではそんなのなかったのにな、と首を傾げるばかりである。
個人的な話になるが、私は2003年当時、付き合っていた女性と一緒に本作を観に行った。彼女がこの映画についてどう思ったのかは知らない。今となっては訊く手立てもない。ただ、彼女と付き合いがある間に本作を再度観ることはなかったと思うし、その後、他の女性とも本作を観たことはない。してみると、多くの女性にとって本作は「何度も観たい映画」ではないのかも知れないのである。
本作の副題は「レインボーブリッジを封鎖せよ!」である。その名の通り、東京のレインボーブリッジが舞台になっているわけだが、四方山の事情により、撮影はレインボーブリッジではなく京都府の久御山ジャンクションで行われたという。映画には久御山にあったジャスコ(当時)の看板が小さく写りこんでいる。上述の「一緒に本作を観に行った」女性は当時、京都で一人暮らしをしていて、私は彼女の部屋に転がりこんでいたこともあり、このトリヴィアルなエピソードには個人的に親しみを覚えはするが。