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■ 12月31日から1月30日にかけて、「一九九六年の音楽」をフィーチャーします。







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『仮面ライダーZO』
ある極私的な分岐点

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何の自慢にもなりませんけど、子供の時分は仮面ライダーに詳しかったんですよね。西暦でいうと九〇年代序盤、ざっと小学校低学年から中学年になるくらいです。この時代のサブカルチャーというと、ポピュラー音楽方面での「CDバブル」が取り上げられる機会が多いと思いますけど、ビデオだってそれなりに賑わってたんじゃないかな。当時私が暮らしていた町にはツタヤなんてまだなくて、インディペンデントのレンタルビデオ屋が幹線道路沿いにちらほらと店を構えていました。たぶん買い物か習い事かのついでだったんだろうと思いますが、母がよく幼い私をそこに連れて行ってくれて、レンタルしたビデオを家で楽しく観たものです。それが当時の日常でした。

借りたビデオには特撮モノも多くて、仮面ライダーのシリーズも結構観た記憶があります。初代はもちろん、V3、X、アマゾン、ストロンガー、スーパー1とかね。当時はたしか歴代ライダーの敵組織の名前をそらで言えたと思います。ショッカーから始まって、ドグマなどを経てクライシスまで。あの方向のまま長じていれば、もしかしたら私はいっぱしの特撮フリークになっていたかもしれないなと、たまに思ったりもします。まぁこう話すくらいですから、仮面ライダーを「卒業」する機会というのもやってくるわけでして、それが今回の『仮面ライダーZO』(一九九三)にあたるんですけども。

こう言ってしまうと、今作がつまらなかったから私が仮面ライダーとか特撮に飽きたと思われるかもしれませんが、そうではないと思います。単に「もうこういうのはいいだろう」という境地に差しかかった、その時に公開されたのがたまたま今作だった、それだけのことだったのではないかと。ある程度の年齢になった女子が、魔法少女や少女漫画からなんとなく「卒業」するように。

そもそも仮面ライダーとは何かと言いますと、昆虫(バッタ)を模した仮面を被ってバイクを駆る特撮ヒーローです。設定としては、既存の人間(だいたいバイク乗りの男性です)をバッタ風に改造した「改造人間」ということになるんですが、最初は一九七一年にテレビ朝日系の三〇分番組として始まって、そこから主人公をなんやかや替えながら現代に至るまで間欠的にシリーズとして続いています。

シリーズの原作者は石森章太郎(七〇年代当時の表記)とされていますが、厳密に言うと、テレビ局や制作会社が新しい番組の企画としてああだこうだと立案したのが「仮面ライダー」で、番組を盛り上げるためのメディアミックスの一環で漫画を担当したのが石森だった。そういう実情だったようです。つまり石森は、パトレイバーでいうゆうきまさみ的な立ち位置だったみたいなんですね。当時は「メディアミックス」なんて言葉はなかったようですけれど。

だからか、仮面ライダーに熱中していた幼い時分に漫画版のライダーを読んだこともあったんですけど、漫画版には全っ然ハマらなかったですね。石森の技術がどうとかは分からなかったけど、読んで「なんか古臭い絵柄だな」と感じたことは覚えています。たぶん九〇年代前半。もうその頃には、石森章太郎が「過去の人」になっていたとかはあるのかもなと、今では思います。私の周りでも、漫画版のライダーを愛読してた子供なんていませんでしたから。

どうしてこういうことを言っているのかというと、この『ZO』が原点回帰を志して作られた映画だからです。

この聞きなれない「ZO」っていうのは、数字の「20」から連想された造語らしいんですね。仮面ライダーのシリーズが始まって二十年、それを記念して作られた映画だからということみたいです。もっとも、企画や制作が長引いて二十二周年のタイミングでの公開になって、それが笑い話のタネになっているみたいですけれど。

本作のプロットは至ってシンプルです。バッタをモチーフにした改造人間にされてしまった男性が、悪い怪人の魔の手から男の子を守るというもの。歴代のライダーが繰り返し演じてきたお馴染みのストーリーです。上映時間も五〇分足らずと、肩肘張らずにさくっと観れるスケールだと思います。


監督は雨宮慶太、脚本は『仮面ライダーブラック』や『スケバン刑事』で実績を積んだ杉村升が担当しました。サウンドトラックは今年(二〇二五年)物故した川村栄二の手によるもの。徳永英明の「輝きながら…」をアレンジした人ですね。あと、助けられる男の子の先輩役として、『宇宙刑事シャイダー』に出ていた森永奈緒美女史が出演しているのも、特撮好きにはアピールするかもしれません。

さっきも言いましたけど、当時はレンタルビデオがそれなりに賑わっていて、ということは映画が全体的に不振だったわけです。だって、大衆は「ビデオで観りゃいい」ってなってるんですから。それでもこの映画は百万人を動員しました。もちろんヒットしたということです。私も当時、劇場まで観に行きました。たしか父か母かに連れて行ってもらったんじゃないかな。当時の親と今の自分の年齢が同じくらいで、目眩がしそうになりますけど。

ただ、この映画がマスターピースとして私の頭に焼きつくとかはなかったですね。先述のように、当時の私がそろそろ特撮モノを「卒業」しておかしくない年齢(小学四年生でした)だったということもあるし、そもそも制作陣が「原点回帰」を持ち出す時というのは、多くの場合、ネタ枯れになった時だったりしますから、そういうので作られた作品って、焼き直しや縮小再生産にしかならないケースが多い。だから、子供からしても「ああ、仮面ライダーやなぁ」としかならなかったんだと思います。翻して言えば、仮面ライダーシリーズを観る最初の作品としては格好なのかもしれません。でも個人的には━━というところですね。

作品情報

・監督:雨宮慶太
・脚本:杉村升
・音楽:川村栄二
・配給:東映
・公開:1993年4月17日
・上映時間:48分





 

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