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『川の流れのように』
絶対歌姫・美空ひばりが歌い遺した、人が抱える本質

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天と地の間隙に存在する森羅万象に「人生」を重ねた形の表現は、国内外問わずよく見受けられる。それは、文明人が心に抱える自然への回帰願望を充たし、ある種の滋養となり得るからなのか。または、「神」たる概念のひとつとされる自然へと自己を重ねることが、いくばくかの禊を思わせるからなのか。

いずれにしても、昭和最高の歌姫・美空ひばりの遺作でもある、1989年にリリースされた『川の流れのように』もその例のひとつであり、なおかつ2013年の現在でも日本人の多くに親しまれている、いわゆる「スタンダード楽曲」である。「美空ひばりって、名前は知っているけど何を歌っていたのかは知らない」という若い人でも、多数は「この歌は知っている」と言うだろう。

日本国内においては、この楽曲がポップスなのか演歌なのかは大した問題でもなく(そもそもポップスと演歌の間に、ブラック・ミュージックとラテンなど程の音楽的差異は存在しない)、いずれのリスナーにも広く親しまれている。


美空ひばりは生前、歌詞を書いた秋元康に対して、この詞を褒め称える言葉を残したという。「人生は川のようなもの。いつかは海に注ぐのよ」などとも。とはいえ、歌は歌。いくら歌詞が良質であろうと、気持ち良いメロディを並べようと、歌い手の素質・力量が十分なものでなければそれらは活きてこない。ましてや、人々の心に残るなど。

川を人生になぞらえ、その有り様を歌い、多くの人の心に残るある種の印象を伴って、昭和の絶対歌姫・美空ひばりは同年6月に亡くなった。

彼女が歌った「人間の本質」「人生の本質」は、偶発的に昭和の終わりを象徴したものとなり、大多数の人々の記憶に刻まれている。もっとも、それもいつか海へ流れるように忘れ去られる宿命を負っている、その上で、だ。

流れゆく時間を伴ったすべてのものが抱える本質が在る限り、『川の流れのように』を聴くことによって得る滋養は、確かにある。


作品情報

・作詞:秋元康
・作曲:見岳章
・歌唱:美空ひばり
・発表:1989年1月11日
・レーベル:日本コロムビア







 

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