日本語 | English

■ 3月31日から4月29日にかけて、時計をフィーチャーいたします。







Atom_feed
『狂言』
Adoのファースト・アルバム

LINEで送る

こんにちは。お元気でしょうか。本日はAdoの自身初となるスタジオ・アルバム『狂言』について、この場を借りてつらつら述べていきたいと思います。もちろん中には「Adoって何? 誰ですか?」という方もいるでしょうが、順番に話していきたいと思いますので、適当にお付き合いください。

Adoというのは日本の女性歌手です。生まれは2002年。うわぉ。ということは今年(2022)で20歳になられたんですね。そういえば今年、成人年齢が18歳に再設定されましたけど、そうすると彼女の世代はいつ成人したことになるんでしょう。よく分かりませんが、いずれにせよご成人おめでとうございます。別に面識があるとかではないのですが。

彼女は2020年10月、配信曲「うっせぇわ」でデビューします。この曲が2021年上半期、爆発的に流行りました。


『狂言』

2022年1月26日発売
ユニバーサル ミュージック

01. レディメイド
02. 踊
03. ドメスティックでバイオレンス
04. FREEDOM
05. 花火
06. 会いたくて
07. ラッキー・ブルート
08. ギラギラ
09. 阿修羅ちゃん
10. 心という名の不可解
11. うっせぇわ
12. マザーランド
13. 過学習
14. 夜のピエロ




アート・ワーク:ORIHARA







ここ何年かのポピュラー音楽って、局所的に「バズる」はあっても、なかなか「流行る」には至れない。そういう風に見えます。でもこの曲は「流行った」と言っていいのではないでしょうか。2021年上半期、近所の公園で幼稚園くらいの子供が「うっせぇわ」を唄っているのを、通りすがりに耳にしたことがあります。そのへんのフツーの子供も私も認知していたわけですから、これはもう「流行った」であろうと。個人的にはそう思います。

この「うっせぇわ」は、楽曲としてはそんなに奇を衒ったものではないと思います。3分半くらいの忙しないトラックに言葉をふんだんに詰めまくっていて、あぁ最近の曲だなぁという印象です。ポストボーカロイド、ポストヒップホップというか。歌詞は「先行世代の説教や正論とかマジ勘弁」という説教や正論を並べたもので、モチーフは「自尊心をこじらせた子供」でしょうか。個人的には、なんかカステラ(平成初期に活動していたバンド)っぽいなと思いました。この曲の流行に便乗してか、自惚れを正当化して世間に物申すクレーマー・ソングが2021~22年にかけて大量発生しました。

Adoに話を戻しますと、彼女はその後、流れに乗っていくつかの曲を配信で立て続けにリリースします。それらにはドラマや映画のタイアップがぽんぽん付きました。なんせデビュー曲がすこぶる流行ったわけですから、彼女は一躍「流行歌手」です。広告代理店でも「とりあえずAdoで行っとこか」という気運だったのかも知れません。

巷にはAdoの楽曲がいくつも流れます。でもそれらの楽曲は常にモニターの向こうにあるばかりで、彼女名義のCDやレコードを、実際に手にする機会はなかった。彼女はCDシングルを1枚もリリースしていなかったのです。時代と言えば時代なんでしょう。そして2022年1月26日、Adoのファースト・アルバムが(もちろんCDで)世に出ました。それが『狂言』です。彼女がデビュー以降に発表したすべての楽曲を収録した本作は、オリコンによると初週で約14万枚を売り上げ、同週間ランキングで1位を獲得しました。

流行った「うっせぇわ」を含め、本作の楽曲制作に(少なくともクレジットを見る限り)Adoは一切携わっていません。全部誰かからの提供曲で、彼女はあくまで歌い手に徹しています。おまけに彼女は素顔も今のところ公に出していません。なんだかデビュー当初のマッキー(槇原敬之)みたいです。

これらはAdoが歌手を志したのがボカロやインターネット歌手に感化されてのことだというのと深く関係しているのでしょう。「初音ミク」に代表されるボーカロイドを使って、インターネット上に自作の歌曲をアップロードする、いわゆる「ボカロP」が、彼女が小学生だった2010年前後に、ぞろぞろと現れました。

加えて、ユーチューブやニコニコ動画などの映像投稿サイトに自作の「唄ってみた動画」をアップロードするインターネット歌手も、この頃には珍しくなくなります。彼らには顔を出さずに活動するケースも少なくない。これらに影響を受けて育ったAdoにとっては、ボカロっぽい提供曲を唄うことや、素顔を隠して歌手活動することは、極めてナチュラルな方向性なのでしょう。

本作がリリースされて間もない2月か3月に、散髪のついでに地元のツタヤへ久しぶりに行きました。レンタルCDコーナーを見ると本作は10枚以上入荷されていて、それらが洩れなく空っぽ、つまり貸し出し中となっていました。これは、「買うほどではないけど、CDでAdoをチェックしておきたい」と考える人が巷間に多くいたということでしょう。彼らはAdoをどう評価するでしょうか。そんなの人によりますよね。でもいずれ出るであろう次回作(セカンド・アルバム)がセールス面で本作をどのくらい上回るか(あるいはどのくらい下回るか)は、それを推し量る指標のひとつになるかも知れません。もちろん売上が音楽の絶対的な評価軸というわけではありませんが。



Ado|ユニバーサル ミュージック





 

『Next Destination』
木村拓哉が明示する「次」を聴く

『ah-面白かった』
吉田拓郎が面白がったもの