『Too many people』
ASKAがひとつ壁を乗り越えた
安室ちゃんの(たぶん)最後のベスト・アルバムと並んで、おそらく2017年を通して、一番芸能ニュースで取り上げられた音楽アルバムではないだろうか。アスカが2月にインディーズ・レーベルから発表した『トゥー・メニー・ピープル』のことである。
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『Too many people』
2017年2月22日発売
DADA Label
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01. FUKUOKA
02. Be free
03. リハーサル
04. 東京
05. X1
06. それでいいんだ今は
07. Too many people
08. と、いう話さ
09. 元気か自分
10. 通り雨
11. 信じることが楽さ
12. 未来の勲章
13. しゃぼん
※青い下線は執筆者推薦曲を表しています。
全作詞・作曲:ASKA
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周知の通り、アスカは2014年に覚醒剤所持により逮捕され、その後2016年11月には今作を完成させ、さぁ発表といったところで2度目の逮捕劇とあいなった。もっともそれは不起訴処分となり、同年末に釈放。キッズには到底耐えられないような、なにやらもやもやした空気の中ではあったが、晴れて今作は日の目を見た(もやもやした葛藤や疑義を抱えつつも毎日を平然と送れることが大人の最低条件であると私は思っている)。
純粋にオリジナル・スタジオ・アルバムとしては4年4ヶ月ぶりのリリースであった。アスカのファンは期待と不安あるいは失望に引き裂かれつつも今作の到着を心待ちにしていたと思う。「クスリをやるようなやつの音楽を心待ちにするなんて、どうかしてるぜ!」と反応する原理的な人もいるかもしれないが、個人の履歴と音楽的才能は別物なのだからしょうがない。
クスリをやらない、法規的に真っ当な凡人の作る音楽より、クスリに手を出した天才の作る音楽の方が、人々を惹きつけるし、市場的なニーズもあるのである。それに「クスリをやるようなやつの音楽には価値がない」としたら、ビートルズもストーンズも無価値になってしまうじゃないか。
言い換えれば、覚醒剤に手を出し、逮捕されたことが公になってから発表される今作において、アスカに許されなかったのは「凡人的な音楽を作ること」だったと言えるだろう。聴いた人が「なんだ、この程度か。そりゃこんなんじゃクスリにも手ェ出しちゃうわな」と思うような音楽を作ることだけは避けねばならなかったはずである。
メジャー・レコード会社からも見放され(だからインディーズ・レーベルからのリリースとなった)、自業自得とは言えど一般の聴衆からは厳しい視線を向けられ、決して好ましいとは言えない状況下で作られた今作は、紛れもなく音楽人としてのアスカの生還を証明している。先行披露されていた楽曲からは、バラード重視のアルバムになるんじゃないかと思わされたが、非常に曲調やテンポのバランス配分が良い。つまり聴きやすいのである。
アスカのパブリック・イメージに沿いながらもマンネリや退屈に陥らない。今作を以てアスカは音楽人としての生還を果たし、「凡人的な音楽を作ること」という第一の壁はなんとか超えたと思う。この後どうなるのか。そんなことは知らない。(と書いた後で、次作『ブラック&ホワイト』がリリースされた。なんという創作ペース)
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