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『デリシャス3』
よくぞこのセッションを実現してくださいました

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こんにちは、皆さん。本日のお題は、JUJUが2018年12月にリリースした『デリシャス3』です。2018年の年末というと、ついこないだのように感じる人もいれば、「もう昔だな」と感じる人もいるかと思います。月日が経つというのは、どうもそういうものみたいですね。

DELICIOUS
~JUJU's JAZZ 3rd Dish~

2018年12月5日発売

Sony Music Associated Records

01. Remember (The Good Times)
02. New York New York
03. Englishman In New York
04. Fly Me To The Moon
05. I Didn’t Know What Time It Was
06. Stolen Moments
07. Walk On By
08. Black Coffee
09. Besame Mucho
10. Smile
11. What A Wonderful World
12. Walk Between Raindrops
13. My Favorite Things
14. メトロ

Produced by Matsuo Kiyoshi
この『デリシャス3』ですが、本当のタイトルは違います。もうちょっと長いんです。正式なタイトルは『デリシャス ~JUJU's JAZZ 3rd Dish~』と言います。でも、ちょっと長すぎますよね。だから短縮して、ここでは『デリシャス3』と呼びます。勝手なことをするな、と言われるかもしれませんが、本作のプロデューサー松尾潔も、本作のライナーで本作のことを「D-3」と呼んでいます。たぶんご本人も「このタイトル、ちょっと長すぎたかな」と思われたんじゃないでしょうか。ただ私は、さすがに「D-3」はちょっと短すぎんだろ、暗号みたいだし、と思うので、ここでは『デリシャス3』で。

「3」というからには、当然、今作は連作ものの3番目です。2011年から続く、JUJUさんのジャズ・カヴァー・シリーズ━━その3作目ということですね。

で、実は私、JUJUさんのヴォーカルに対して、若干の苦言を呈したことがあります。ジャズ・ヴォーカルとしては物足りない、みたいに。それは『デリシャス』『デリシャス2』の稿を読んで頂ければ、お解り頂けると思います。生意気な、と思われるかもしれませんが、しかたありませんよね。どんなのがジャズ・ヴォーカルで、どんなのがジャズじゃないかというのは、人によってそれぞれ(微妙に)違いますから。

GLAYをロックだと言う人もいれば、あれはロックじゃない、と難じる人もいる。そんなものですし、それでいいじゃないかと私は思います。一つのチリソースが、ある人にはピリ辛だけど、別の人には激辛に感じる。そういうものだと思っています。だからもし「JUJUの歌声こそジャズだ」と言う人がいても、それを否定するつもりは毛頭ありません。あくまでも感覚的なものですからね。

それにそういう意見って、時間の経過によって変わることも、ままあります。私だって、40歳になったら「やっぱりJUJUのジャズはええなぁ」なんて言っているかもしれない。こればかりはわからない。要するに人の意見というのは、移り変わる間の「取り敢えず」に過ぎない場合が多いということです。月日が経つというのは、どうもそういうものでもあるようです。

この言い回しでお気づきの方もおられるかもしれませんが、つまり私は、今作に苦言を呈するわけではないのですね。言いたいことがなくはないですよ。たとえば、このシリーズは「普段ポップスを聴いている人にジャズを紹介する」意味合いもあるそうですが、それなら「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」は完全版で演って欲しかったな、とか。そういうのがないではない。

でも、そういった点を考慮しても「これはいい」と思える美点がある━━3曲目の「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」です。これに私の胸は射抜かれました。スティングの有名な曲で、この曲をJUJUさんは今回、先輩である久保田利伸とデュエットしています。

これがね、めっちゃ良いんですよ。はっきり言って、原曲より好きです。この曲を収録している、これが聴けるというだけで、個人的には「いいね」です。デュエットしているお2人のヴォーカルやスキャットもグーなんですが、そのバックを丁寧かつ洒脱に支える島健のピアノや管楽器隊もチョベリグです。松尾さん、よくぞこのセッションを実現してくださいました。お礼にソニーの株買わせて頂きます━━というのは(もちろん)冗談ですが。


お2人がデュエットしている「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」にどうしようもなく胸を揺さぶられる。たまらなく何度も聴き返したくなる。それは確かで、その内実を言語化したり、あるいは理屈にしたりするのは、もしかしたら(結構)つまらないことかもしれません。

こうなると気になるのは、解説に書かれていた「他の候補曲」です。解説文によると、久保田さんと松尾さんは「どの曲を唄うか」を真剣に検討して、その候補は他に7曲あったそうです。久保田さんによるデモ・ヴォーカルも、合わせて8曲分録音されたそうですが、こんなふうに書かれると、いったいどんな曲が選ばれていたのかなと思いますよね。そこを敢えて語らないのが松尾さんなりのディセンシーかもしれませんが。

もう一つ気になるのは、ラストの「メトロ」のデモでしょうか。この曲の作詞は松尾さんで作曲とピアノが小林武史なんですが、JUJUさんのコメントによると、デモでは小林武史ご本人が唄っていたそうです。マジか、ですよね。あの人、昔はソロ・アルバムを出して、そこで唄ってもいましたけど。


JUJU 公式サイト




 

『タッチズ&ヴェルヴェッツ』
南博と菊地成孔の「1950年代のニューヨーク」

『Journey without a map Ⅱ』
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