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■ 3月31日から4月29日にかけて、時計をフィーチャーいたします。







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『23歳』
素数好きのエンターテイナー、KAN

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2011年の映画『ステキな金縛り』にKANが出演していたことをご記憶の方も多いかと思います。あの映画は観ましたか? 公開当時、私は劇場に観に行きました。三谷幸喜による法廷コメディ(と言うんでしょうか?)ですが、深キョンがセクシーで、阿部寛が偉そうで、草彅剛が幸薄い感じでと、抑えるべき点は抑えていた映画でした。その映画世界で、KANは殺人被疑者の役を演じます。彼を起点に物語は進むのですが、私はスクリーンの中の彼を観て、くすっと笑いながら、こう思いました。「何やってんだ、KAN」。

時は流れて2020年。日本国内で新型コロナウイルス(COVID-19)が猛威を振るったこの年の11月、KANは4年9ヶ月ぶりのスタジオ・アルバム『23歳』を発表します。それに先立ち、2月には先行シングル「ポップミュージック」がリリースされました。そのミュージック・ヴィデオが1月にユーチューブ上で公開され、私はそれをたまたま見つけて観賞したのですが、そのときも私は(やはり)こう思いました。

「何やってんだ、KAN」。



いったい何の話なんだと思われるかも知れませんが、私はKANを嘲るつもりでこう言っているのではありません。むしろ敬意と驚きを込めての「何やってんだ、KAN」なのです。

そう、KANこそは日本のポップス界切ってのエンターテイナーなのです。

と言っても、KANを知らない、あるいは、彼の代表曲「愛は勝つ」は知っているけど、それ以外は知らないという人もおられるでしょう。もしあなたがそうなら、大変にラッキーだと思います。これからの人生に、KANや彼の音楽に出会う(大きな)楽しみが残されているのですから。

一応説明しておきますと、KANは1962年生まれのシンガーソングライターです。1980年代半ばにデビューして以降、当今に至るまでコンスタントに活動を続けています。彼の代表曲となると、これはやはり1990年発表の「愛は勝つ」で間違いないでしょう。発売当時、このシングルはオリコン週間チャートで8週連続1位を獲得し、その累計売上枚数は実に200万枚以上と言われています。言うまでもなく、超特大ヒットです。


『23歳』

2020年11月25日発売
zetima

01. る~る~る~
02. 23歳
03. ふたり
04. 君のマスクをはずしたい
05. キセキ
06. メモトキレナガール
07. コタツ
08. ほっぺたにオリオン
09. ポップミュージック
10. エキストラ


青い下線は執筆者推薦曲を表しています。



DVD収録内容:
Recording Documentary「58歳」


では、エンターテイナーとは何でしょう? 歌手や歌番組、あるいは音楽系の媒体がしきりに「エンターテインメント」と言いますが、そもそも「エンターテインする人」とはどういう人のことを指すのか?

愚問ですよね。答は「誰かを楽しませる人」です。それがエンターテイナーであると。そんなことは英和辞典を見れば誰でも分かります。

KANに話を戻しますと、私は彼とは一面識もありません。私が彼を拝見するとしたら、それはなんらかのメディアを通してのことです。で、彼を拝見するたびに、私は「えっ?」と吃驚し、つい顔がほころんでしまう。小さいけれど確かな幸せのことを、村上春樹は「小確幸」と名付けましたが、それに倣って言えば、KANは私に「小確幸」をもたらしてくれる。そんな存在なのです。そういう人をエンターテイナーと呼ばずに、いったい何をエンターテイナーと呼べばいいのか? 私には分かりません。

そのKANは、もちろん23歳ではありません。地方のどこかの小学校で校長職にでも就いていそうなその外見は(どこからどう見ても)20代のそれではない。にもかかわらず、なぜ「23歳」なのか? そう訝しむ人もいると思います。彼に直接訊ねたわけではありませんが、彼は「素数好き」として有名なので、たぶんそのあたりに起因するのではないでしょうか。いくら素数だからと言って、KAN自身に近い「59歳」などと冠しても、それが民衆の興味を惹くとは思えませんし。

本作をリリースして2ヶ月後、2021年1月からは、KANは単身弾き語りのツアーを回る予定です。実際に観客を入れてのコンサートです。2020年12月時点で、国内で感染拡大が続いていることを考えれば、興行の実施には賛否両論あるかも知れません。しかし、上述のように、エンターテイナーとは「誰かを楽しませる人」なのです。それは裏を返せば、「ダイレクトに他人を必要とする人」でもあり得ましょう。他人がいなければ自分の存在そのものが成り立たない。

「誰だって大なり小なり他人を必要とするだろう」ではありますが、エンターテイナーは特にそうなのです。であれば、日本のポップス界切ってのエンターテイナーであるKANにとっては、観客を入れない形のコンサートなど、あり得ないものであろうと推察します。

彼は自身の公式サイト上で「日常を忘れてお楽しみいただける内容をきっちり作って臨みます」と宣言しました。さりげない言葉ですが、エンターテイナーとしての矜持と覚悟が感じられるコメントだと思います。

『23歳』にはレコーディングの様子を収蔵したDVDがデフォルトで付いています。つまり、本作はDVDも含めた形で初めて成立する、ということなのでしょう。目玉となると、エレクトリック・ギターを弾く秦基博でしょうか。最近の彼はアコースティック・ギターに傾倒していて、エレキはほぼ弾かない方針らしいですからね。レアと言えばレアな映像です。こういうところにも、KANのサーヴィス精神が顕現しているのかも知れません。



KAN オフィシャルウェブサイト - www.kimuraKAN.com





 

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