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■ 2月29日から3月30日にかけて、文房具をフィーチャーいたします。







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『3rd -LOVEパラダイス-』
モーニング娘。が継承した「森高千里」

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前世紀末において、モーニング娘。はどんな女性アイドルだったのか? なんだ藪から棒に。そう思われるかも知れないが、モー娘。がメジャー・デビューしたのは、今から22年前の1998年である。当時をリアルタイムで知っている世代となると、おそらく若くても30代にはなっている。今では当時を知らない人も多かろう。それなら「モーニング娘。はどんな女性アイドルだったのか」は、疑問としてあり得るはずである。でもこれは、当時を知らない人には、ちょっと説明が難しい気がする。

というのも、当時って、モー娘。以外に「女性アイドル」がいなかったから。つまり、比較対象がなかった。今でこそ48グループだとかハロプロだとか、あるいはベビメタだとか、女性アイドルが供給過剰気味に乱立しているが、当時はこれといった女性アイドルがいなかったのである。だから「どんな女性アイドル」も何もない。モー娘。が女性アイドルだった、としか言いようがないのである。


『3rd -LOVEパラダイス-』
2000年3月29日発売

Zetima

01. ~おはよう~
02. LOVEマシーン
03. 愛車 ローンで
04. くちづけのその後
05. 恋のダンスサイト
06. ランチタイム ~レバニラ炒め~
07. DANCEするのだ!
08. おもいで
09. 原宿6:00集合
10. WHY
11. 「、、、好きだよ!」
12. ~おやすみ~

青い下線は執筆者推薦曲を表しています。


全作詞、作曲:つんく
プロデュース:つんく

モーニング娘。参加メンバー:
中澤裕子、石黒彩、飯田圭織、
安倍なつみ、保田圭、矢口真里、
市井紗耶香、後藤真希




もちろん、前世紀末にも女性歌手はいた。リンドバーグ、ZARD、安室奈美恵、SPEED、ELT、宇多田ヒカルなど、挙げればきりがない。決して当時のポップスが「女人禁制」だったとかではない。でも彼女達は、歌手ではあってもアイドルではなかった。推測だが、聴き手のほとんどは彼女達を「アイドル」とカテゴライズしてはいなかったように思う。

当時は未成年女子による援助交際が社会問題になった時代で、つまりは「若い女が好き」というオッサンがそれなりにいたということである。そういう手合いは彼女達をアイドル視していたかも知れない。でも彼女達と同世代か、それより下の世代のリスナー(当時の私もそこに含まれる)にとって、彼女達は「歌手」で「アーティスト」だった。

それを踏まえて、「90年代にいた女性アイドル」を強いて挙げるとすれば、森高千里になるであろうか。広末涼子は違ったと思う。彼女は篠原ともえと同様、「女性タレント」ではあってもアイドルではなかったと思う。もちろん、広末や篠原を偶像崇拝していた人もいるかも知れないし、それはそれでいいのだけど。

で、森高千里というと、今でこそ「私がオバさんになっても」と唄いながらも若々しい人、という感じでポピュラーなのかと思うが、90年代半ばにはビールのCMソング(気分爽快)や「めざましテレビ」(フジテレビ系)の主題歌(ララ サンシャイン)で有名だった。なにしろ時代は「バブル崩壊」のすぐ後である。森高のあの明るい感じに救われた、という人は存外多かったのではと思う。なればこそ、彼女は「女性アイドル」足り得たはずである。


森高とモー娘。は同じ事務所の先輩と後輩で、しかし森高とモー娘。は路線が相当かけ離れていた。1998年のモー娘。は、(今思えばということだが)未成年の女子が背伸びして色っぽく見せようとしていた感じで、つまりは「水商売の女」感が濃厚だった。森高の「明るく溌剌はつらつ」路線とは、まるで正反対である。

とはいえ、個人的には当時のモー娘。をフツーに受け容れていた。なんせ「女性アイドル」が不在で、それがフツーだったのである。ああ、女性アイドルってこういうのなんだ。それでお仕舞い。比較する対象がなければ、なんだって「ノーマル」なのである。

明けて1999年、森高とモー娘。に転機が訪れる。この年の6月、森高が江口洋介と「できちゃった結婚」をしたのである。その後には当然、出産と育児が控えている。芸能活動は当面休止せざるを得ない。それは仕方ないが、では森高が担っていた「明るい女性アイドル」はどうするのか? 結果から言えばモー娘。が担うことになる。だって他に「女性アイドル」がいないんだから。同年9月、モー娘。は、今までの路線とは一線を画した明るいパーティー・ソング「LOVEマシーン」をリリース。この曲が160万枚以上を売り上げ、グループで一番のヒットを記録する。それは、モー娘。が「明るい女性アイドル」として当時の民衆に広く迎えられたことを意味する。


民衆に広く歓迎されたのだから、この路線は翌2000年も踏襲される。同年1月には、冷静に聴くと結構カオティックなパーティー・ソング「恋のダンスサイト」をリリース、前作に続いてのミリオン・ヒットとなった。3月にはその2曲を収録した『3rd -LOVEパラダイス-』をリリース。彼女達の3作目のスタジオ・アルバムにあたる本作は、ミリオンとはいかずとも80万枚以上を売り上げ、オリコンが発表する2000年の年間アルバム売上ランキングで24位に就いた。


モー娘。は『3rd -LOVEパラダイス-』で「森高千里」を継承した。そう考えられるのではなかろうか。本作では「背伸びして色っぽく見せよう」路線は鳴りを潜め、その代わり(というか)通常の楽曲の他に、ところどころ寸劇が差し込まれている。これ、要る? と訝る聴き手も多いかも知れない。しかし、これこそ「森高千里」路線の継承なのであろう。彼女の『古今東西』にも、首を傾げたくなるような寸劇が収録されていた。

おそらく、モー娘。を始めとするハロー!プロジェクトの面々にとって、森高は今でも「偉大な先輩」なのであろう。2016年には、つばきファクトリーが「私がオバさんになっても」のカヴァーを出している。

さて、2000年以降になると、森高は芸能活動を休業、モー娘。はメンバーチェンジを繰り返しながら、次第に、「自尊心が肥大した女」を唄う路線へとシフトする。やがて育児が落ち着いたのか、森高は2012年に芸能活動を再開、翌2013年にはモー娘。の「再ブレイク」が喧伝された。


ハロー!プロジェクト公式サイト





 

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