『SENSE』
純度100%の、ミスター・チルドレン
音楽をCDという記録媒体に落とし込み、それを日本で二番目に売り上げた、まごうことなきポピュラー・ミュージック・バンド、ミスター・チルドレン(以下、ミスチル)。そんな彼らのディスコグラフィーの中で、もっとも「ポピュラーに寄らなかった」アルバム。それが、2010年末にリリースされた、『センス』なのです。
別に難解で聞き苦しい曲が並んでいるとか、個人の苦悩が全体に描かれているとかいった意味での、「ポピュラーに寄らなかった」ではありません。むしろ、収録されている曲は、ノリやすく、楽曲の世界観にはいりこみやすい、良質なポップスばかりといえます。
問題は、このアルバムが世に出たあり方なのです。通常、アルバムの曲をシングルとして切って、ヒットの足がかりにしたりするものですが、先行配信こそあったものの、このアルバムからは、一枚もシングル盤を出していません。それどころか、『センス』は発売日になるまで収録曲もアルバム・タイトルも伏せたまま、いわば「謎のアルバム」として世に出たのです。当然、メディアでのインタビューやレビュー、PRも、いっさいないままでした。
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SENSE
2010年12月1日発売
TOY'S FACTORY
価格: 税込3,059円
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01. I
02. 擬態
03. HOWL
04. I'm talking about Lovin'
05. 365日
06. ロックンロールは生きている
07. ロザリータ
08. 蒼
09. fanfare
10. ハル
11. Prelude
12. Forever
※青い下線は執筆者推薦曲を表しています。
プロデュース: 小林武史 & Mr.Children
全作詞・作曲: 桜井和寿
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そんな、プロモーション(広報・宣伝)の常識をくつがえしまくった形で発表された『センス』は、それでも、彼らのブランド力なのでしょうか、週間オリコンチャート1位を獲得しました。
彼らに広報資金がなかったとは考えられません。なのに、なぜ『センス』に限って、このような方法が選ばれたのでしょう。
収録されている全曲にいえることなのですが、どうしようもなく「ミスチル」なのです。これに関して、ひとつ前のアルバムのリリースの際、彼らのデビュー以来、一貫してプロデューサーとして関わってきている小林武史の発言に、こんなものがありました。「やっぱりミスチルと僕は、(中略)ライブやレコーディングの進め方なんかを、あえてさらに密接にしようとしてるところがある」
ミスチルと小林の共同作業を、方向性を決めず、いったん煎じ詰める。これが、『センス』という作品を作る際にあったテーマなのではないでしょうか。通常であれば優先されるべきマスへの配慮も、とりあえず二の次として、自分たちの楽曲制作を第一にする。その結果として生まれた12曲は、良質なポップスでありながら、いずれもミスチルらしさをみじんも隠さないのです。
彼らはヒット曲の多いバンドです。しかし、「ミスチルの根幹の再確認」の意味を持つであろう『センス』においては、時代や時流とはかけ離れたところでの、きわめて純度の高いミスチルが味わえるのです。
※参考文献:
『ワッツイン』ソニー・マガジンズ・2008年12月号
ぱみゅぱみゅレボリューション
きゃりーぱみゅぱみゅの、「ロリ」と「ポップ」
『The Swinging Star』
「永遠のポップス」が、あのころの空気を伝えて