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『re:evergreen』
My Little Loverの、音楽人としての誠意

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懐かし需要とでも言うんでしょうか、音楽のみならず、様々なコンテンツで、昔のヒット作をリイシューして、特定の人たちのノスタルジーを刺激する形で、数字を稼ごうとするやり方が、目につきます。『ザ・ビートルズ 1+』なんか、その典型と言えるでしょう。古き良きモノを、現代に適切な形で伝える意義もあるんでしょうが、オリジナル性には乏しい気がします。


re:evergreen
2015年11月25日発売

TOY'S FACTORY

Disc 1 「re:evergreen」
01. wintersong が聴こえる
02. pastel
03. 星空の軌道
04. 今日が雨降りでも
05. バランス
06. 夏からの手紙
07. 舞台芝居
08. 送る想い
09. ターミナル
10. re:evergreen


Disc 2 「evergreen+」
01. Magic Time
02. Free
03. 白いカイト
04. めぐり逢う世界
05. Hello, Again ~昔からある場所~
06. My Painting
07. 暮れゆく街で
08. Delicacy
09. Man & Woman
10. evergreen


青い下線は執筆者推薦曲を表しています。

プロデュース: 小林武史
My Little Loverが今年11月25日に発表した『re:evergreen』は、自身最大のヒット・アルバム『evergreen』(1995)への返信とも言えるアルバムです。2CDあり、内容は、『evergreen』のテイストを現在のMy Little Loverで励起したニュー・アルバム「re:evergreen」と、『evergreen』の、当時は打ち込み演奏だった部分を生楽器に置き換えた、いわば一種のリミックス・アルバムでもある「evergreen+」になります。

ある意味では、懐かし需要に応えている今作ですが、巷にあふれるリイシュー商品とは決定的な違いがあります。それは今回、My Little Loverは、丁寧に自分たちの過去と向き合い、音楽家として、それを現在に表現しようとした、つまりは新しくオリジナル・アルバムを発表するやり方で、過去に応えようとしている点です。ここに、プロデューサーである小林武史の良心と意地を見た気がします。

楽曲は、『evergreen』の再来とも言える、高品質なポップスそのものです。CDをセットし、「winter song が聴こえる」が始まりました。フィル・スペクターや大瀧詠一がこよなく愛した、ウォール・オブ・サウンドのポップ・ソングが聴こえてきます。全編、ゼイタクなまでに生楽器を用いてこその音楽は、現代には逆に新鮮であり、ある種のアンチテーゼでもあるかのようです。

出来上がるまで、ずっと手をつないで待っていた弁当屋。寒い夜のバス停で、温かい缶コーヒーを手渡した時に、目を見ずに伝えられた告白。普段は忘却という扉の向こうに眠っているはずの痛みが目を醒まし、不意に胸をかきむしる。この作用と仕儀は、残念ながら民謡やクラシックには無く、優れたポップスを聴くにこそ顕著です。『re:evergreen』においても、また然り。

取り戻さなけりゃいけないことがある
だけど進化もしていかなきゃね
それを男に任せてばかりでは
だめな気がする 僭越ながら

「舞台芝居」より

時間と共に、人も街も、目に映るすべては変わっていきますが、では進歩しているかと訊けば、疑問符です。裏を返せば、時間に左右されない不変性とは、見えないところにこそ存在し得るのです。『re:evergreen』は『evergreen』への返信であると同時に、この20年という歳月を経た我々の内に潜む、「相変わらずな何か」を想起させてやみません。無論、それはMy Little Loverの、ポップスに対する愛と誠意が根底にあってこそ、なのです。


My Little Lover Official Website







 

『組曲(Suite)』
新しくも懐かしい、中島みゆき

『シャンデリア』
back numberの堅実性の結晶