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『Next Destination』
木村拓哉が明示する「次」を聴く

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木村拓哉が今年(2022)1月19日に、自身2作目のスタジオ・アルバム『ネクスト・デスティネーション』を発表した。もちろん、それが本稿の主題であるわけだが、もしかしたら今は「そもそも木村拓哉とは何者なのか」から始めないといけないかも知れない。私の世代(80年代生まれ)には説明不要かと思うが、当世の若い人には「木村拓哉」とか「キムタク」がピンとこないということもありえようから。

木村拓哉は、1972年生まれ。1987年からジャニーズ事務所に所属し、1991年に男性6人組のグループ「SMAP」の一員としてビクターからメジャー・デビューした男性タレントである。SMAPはそのデビュー当初こそ鳴かず飛ばずの低迷気味だったが、90年代半ばには全国的な人気を博した。90年代後半になると、大人であれ子供であれSMAPを知らないなどはそうそうないという状況になる。そこには様々な要因があったと思うが、木村拓哉の破壊的な人気が大きかったのではと私は見る。

私は木村の一回り下の世代にあたる。1993~94年、SMAPが知名度を徐々に獲得しつつある頃、私は小学4~5年生だった。当時、私は彼らを全然知らなかった。でも同じクラスの女子が木村拓哉の写真が印刷された下敷きを学校に持ってきたりしていた記憶はある。だから「キムタク」という愛称で呼ばれる男がいて、彼が女子(の一部)に人気なのだということは、なんとなく認識していたように思う。

1994~95年、私が小学5~6年生になる時分には、SMAPは「どんないいこと」や「がんばりましょう」などの歌を立て続けにヒットさせ、テレビ番組でも大量に露出。ここに至って、私もSMAPというグループを認識するようになった。グループには、中居正広がいて稲垣吾郎がいて森且行もいた。でもその中で圧倒的に存在感を際立たせていたのは、やはりキムタクだったのではないだろうか。

つまりSMAPは、最初は「キムタクがいるグループ」と認知されるケースが多かったのではないかということである。その「キムタクがいるグループ」が徐々に残りのメンバーも認識されるようになり、やがて「SMAP」というイメージが巷間に結実した。そういう流れが多かったのではないかと、あの時代を過ごした身として思う。もちろん、いろんなケースがあるとは思うが。


『Next Destination』(通常盤)

2022年1月19日発売
ビクターエンタテインメント

01. MOJO DRIVE
02. OFF THE RIP
03. Beautiful Things
04. Good Luck, Good Time
05. Come Alive
06. Yes, I'm
07. 夜は朝に追われて
08. Born ready
09. beautiful morning
10. Crazy party
11. MORNING DEW
12. I'll be there





プロデューサー:見上浩司

キムタクとはそういう特別なTVパーソナリティーだったのだが、その巨星は意外と言えば意外なことに、ソロ・デビューをしなかった。同じSMAPの稲垣吾郎や草彅剛がソロ名義で音楽活動をしても、木村はソロ歌手の道を歩まなかった。決して歌が下手だったわけではない。SMAPの歴代のアルバムでは、木村のソロ楽曲をいくつか聴くことができる。でも彼はあくまで「SMAPの一メンバー」に収まっていた━━少なくとも音楽面では。そして2016年、青天の霹靂が訪れる。

当時のジャニーズ事務所のトップが、SMAPのマネージャー(女性)に腹を立て、彼女を事務所から放逐したのである。その煽りを受け、SMAPは同年内での解散を強いられた。要するに雇用主からのパワハラであるが、こうしたことが報道されて民衆は呆気にとられた。「こんなことでSMAPが終わるのか?」と思った人も多かっただろう。逆転劇を期待する人も。しかし同年末、彼らは静かに解散した。

かつてのスターが、実は単なる被雇用者に過ぎなかった。そういう実相が全国的に曝され、木村以外のSMAPメンバーは皆、ジャニーズ事務所を去った。一人残留した木村は「これからどうするか」を明示できずに何年かを過ごし、社会的信用を失った(からかどうかは知らないが)事務所はガタガタになっていく。そういう「これからどうなるんだろう」的混沌が続く中、2020年、木村はソロ・アルバムを引っ提げ、ポピュラー音楽の世界に戻ってきた。

本稿の主題である『ネクスト・デスティネーション』は、2020年の作品の次なるステップにあたる。題は「ネクスト・デスティネーション=次なる行き先」であるが、ここで言う「次」が本作なのか、やがて現れるであろう次回作なのかは、今ひとつ判じない。でもそういう旗印を掲げる以上、本作における木村は「これから」を明示できる境地にあるのかなと愚考する。それは大きな前進だと思う。

彼のあり様を「かつての栄光を引きずっている人の悪あがき」と評する向きもあるだろう。それに、彼の境遇を考えれば、その前途は茨の道あるいは狭き門かも知れないとも思う。本作はオリコンで初登場1位(ウィークリー)を獲得したものの、その売上は約9万枚と、2020年に出た前作(約17万枚)を大きく下回った。

恐らく木村自身も、自分が歩む道に対し、決して楽観視はしていないだろう。それでも彼は「キムタク」として、逆境を(たぶん)承知の上で、次の地点を見据え、向かう。いささか抽象的に過ぎる物言いではあろう。私が言う「次」とは具体的にどういうものかと訝る人もいるかと思う━━が、そういう人にはさしあたり本作を聴いて自由に感じてもらうしかない。



木村拓哉|ビクターエンタテインメント





 

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