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『ティー・タイムズ』
大西順子のセカンド・ステージと転身

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ジャズ・ミュージシャンである菊地成孔がプロデュースした、ジャズ・ピアニスト大西順子の復帰作。『ティー・タイムズ』をシンプルに言い表せばそうなる。復帰作、というのは、彼女は2012年にピアニストとしての現役引退を発表したからだ。その後、小澤征爾や日野皓正(大西がデビューするきっかけを作ったとも言われている)とのゲスト的共演をはさみ、2016年に満を持してリリースされたのが『ティー・タイムズ』というわけだ。


Tea Times
2016年6月22日発売

Village Records


01. Tea Time 2
02. Blackberry
03. Tea Time 1
04. Chromatic Universe
05. GL/JM
06. The Intersection
07. Caroline Chapmtier
08. Malcolm Vibraphone X ft N/K OMSB
09. U Know ft OMSB JUMA 矢幅歩 吉田沙良
10. Fetish


All Compose & Edit by Kikuchi Naruyoshi
M-4 Compose by George Russell
M-6 Compose by Hazama Miho
Produced by Kikuchi Naruyoshi



この『ティー・タイムズ』が大西にとっていかなものなのか。それを知るには、まず大西順子とはいかな人なのかを知ることが肝要である。

大西のレコード・デビューは1993年。いきなりのセルフ・プロデュースでありつつも、ジャズとしては異例の5万枚を売り上げた。ちなみにジャズは1万枚売れれば大ヒットという世界である(最近はポップスもそうなってきているが)。2000年代に女性ジャズ・ピアニストとして上原ひろみや山中千尋らが台頭してくるが、彼女はその先駆けであったと言えるだろう。

彼女のプレイにおいては、女性らしさ、日本人らしさなどは目立たない(なくはないけど)。ボストンのバークリー音楽院を首席で卒業しただけのことはある、ドライヴ感溢れるマッシヴなピアノが彼女のシグネチャーと言って差し支えはないだろう。器用さ、繊細さはそこへの調味料に過ぎないと思う。

そんな彼女はなぜ引退したのか。実際的な知人ではないから、彼女のこれまでの発言から推測するしかないが、ひとつには年齢的なものがあっただろう。引退当時の彼女は40代半ばだった。20代や30代の頃のプレイや閃きには、ある意味では及ばなくなる。齢を重ねるとはそういうことだ。もちろん、代わりに得るものも多くあるのだけどね。だがアスリートやジャズマンなど身体を使う職業の人には、往々にして衰えの方が際立ってしまうものだ。

愚見を裏付けるように、引退当時、彼女はこんな声明を出した。「自分のための演奏は出来ても、オーディエンスを満足させるパフォーマー、クリエーターにはなれない、むしろ研究者でいたい」。

もうひとつには、孤高の存在としてやってきたピークがあったとうかがえる。彼女はずっとセルフ・プロデュース、つまり自分の音楽的世界観だけを頼りにやってきたピアニストだ。だが他者との化学反応なしで創作をやってくれば、遠からず限界が来る。自立した永久機関など存在しないのだ。

別言すれば、他者の音楽的世界観に沿う形でなら彼女は現役たりえる、あるいはピークを先延ばしできるということだ。だからこそ、小澤や日野と「共演」ならできたのだし、実質的な復帰作『ティー・タイムズ』には「自分ではない」プロデューサーが必要だったのだろう。プロデューサーの菊地とは、2010年代に入ってから、彼のラジオ番組を通じて交流があったと聞き及ぶ。

よって『ティー・タイムズ』とは大西順子のセカンド・ステージであると結論付けられる。それは単純に一度引退してからの復帰作だからではない。彼女が自分という素材を他者(プロデューサー)に完全に明け渡して、その世界観の一部として自己完遂した、初めての例だからである。前段階としてガンダムのサントラがあったが、あれはその試金石だったのだろう。

盤の内容は、マイルズ・デイヴィス真理教の信者である菊地成孔の面目躍如と言ったところか。クラブ・サウンドもヒップホップも何でもありのジャズだ。菊地は今回サックス・プレイヤーとしては参加しておらず、プロツールスでの編集と作曲がメイン。言い換えれば、曲想と編集の方向性にこそ、大西順子を俺はこう料理するんだという、彼の強い意志を感じられる。

しかし引退した映画監督が古今東西存在しないように(宮崎駿のように「俺はもう引退する」が口癖の人は多くいるけどね)、ジャズマンが本当の意味で引退するというのも、ありえないのかなと思える。だってジャズが心底より好きで楽器が弾けるなら、弾きたくなるのが人情だし、そうしたら誰かとセッションしたい、誰かに聴いて欲しい、と思うのが自然だからね。その快感を経験した人ならなおさら完全な引退は難しいんだろうなぁ。



Jazz Pianist - Junko Onishi 大西順子 Official Web Site




 

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