何とも仰々しいというか、スケールの大きなタイトルです。『オールトの雲』とは。意味するところは、冥王星よりもっとはるか彼方に存在すると言う天体群ですが、今回紹介する『オールトの雲』は、女性シンガーソングライター・柴田淳が、2002年に発表したファースト・アルバムです。
タイトルだけ見ると大きく出た感じですが、内容はピアノを主体としたバンド・サウンド。詞世界は陰がありつつも現実に処せんとする、中くらいの位置に存在する女性の様々な心情、といった感じでしょうか。まぁ、間違ってもいきものがかりや中島みゆきの世界観とは合致しません。
それはなぜかというと、シンプルな音世界もそれを成立させている要因なのですが、「ナチュラルさ」が大きく作用しているように思います。1990年前後の
今井美樹や90年代の
ZARDのような、過度の装飾を敢えてあしらわずに、素材の味を最大限に活かしました、とでも言うような、天然風味です。
全10曲とあって、この時代のアルバムとしては、ヴォリューム的に少ないと捉えられたかも知れません。また、彼女のアーティストとしての風味が当時は「地味」として受けなかったのかも知れません。チャートではトップ50圏内に入ることもかないませんでした。
しかしタイトル通り、このアルバムは我々の目に届きにくい所で光ってしかるべきなのだと思います。彼女の歌はスター候補というより、ポップス職人候補というところで見込まれた要素の方が多いと考えられるからです。アルバムの「帰り道」などで見られるメロディ・メイキングのセンスと手腕がそのことを雄弁に物語っています。
彼女の描く歌詞も、我々と隔絶されない、生身の体温をもって我々に伝わってきます。オープニングを飾る「なんかいいことないかな」は、こんな唄いだしで始まります。「♪少なからずと私は歪んで 人を見る目に支障が出た 人を信じたい バカを見ないなら 夢を叶えたい 叶うなら」
J-POP好きで知られる
マーティ・フリードマンが自著で「J-POPとはつまりZARDだ」みたいなことを云っていました。そのニュアンスとは若干異なるかも知れませんが、確かに「陰のある清純派」な女性って、独特の色香があると思います。もちろん、良質な音楽性という素地があればこそ、ですけど。