日本語 | English

■ 11月30日から12月30日にかけて、「味噌」をフィーチャーします。







Atom_feed
『勝訴ストリップ』
椎名林檎と本作のヒットがなければ

LINEで送る

『勝訴ストリップ』は、2000年3月にリリースされた、椎名林檎の2枚目のスタジオ・アルバムである。1999年の秋以降にリリースされたシングル3作品をすべて収録した本作は、最終的には約250万枚のセールスを記録。彼女が発表した作品の中でベストセラーとなった。ちなみに、オリコンが発表した2000年のアルバム年間売上ランキングでは3位の座に就いている。

━━のだが、私個人の感想を言わせて頂ければ、私には椎名林檎の良さがよく分からない。歌手としての彼女を良いなと感じることはある。彼女が2019年に発表した「ワインレッドの心」は、安全地帯のカヴァーだけれど、本当に良いなと思う。編曲面では、あの下世話なアウトロはどうなの? と思わなくもないけど、それでも何度も聴いたくらい、良いと思っている。ただし「シンガーソングライター」あるいは「作家」としての彼女の良さとなると、やはりよく分からない。

シングル盤「ここでキスして」(1999)で一躍有名になった頃から、椎名林檎という存在を知ってはいる。でも彼女の良さは、ついぞ分からなかった。なんかサウンドも唄い方も歌詞もアクが強すぎるというか。当時は「俺が聴くもんじゃないな」と思った。これは今でも同じで、だから本作『勝訴ストリップ』を聴いてみても「はぁ、なるほど」としか言いようがない。本作を自腹で買うか? と問われれば、申し訳ないけれどNOである。


『勝訴ストリップ』
2000年3月31日発売

東芝EMI

01. 虚言症
02. 浴室
03. 弁解ドビュッシー
04. ギブス
05. 闇に降る雨
06. アイデンティティ
07. 罪と罰
08. ストイシズム
09. 月に負け犬
10. サカナ
11. 病床パブリック
12. 本能
13. 依存症


青い下線は執筆者推薦曲を表しています。


全作詞・作曲:椎名林檎
全編曲:亀田誠治、椎名林檎


つまり、私と椎名林檎の相性は、お世辞にも良いとは言えない。そんな私に本作を論じられても、彼女や、本作の制作に携わった人達には、気の毒な話でしかあるまい、と思う。だから私は、話の主軸を椎名林檎から亀田誠治にずらすことにする。

亀田誠治(1964-)は、21世紀初頭の日本のポップス界で頭角を現したアレンジャー兼プロデューサーである。椎名林檎やスピッツ、GLAY、平井堅、JUJU、ソフィアなど、亀田と組んで制作に臨みたがる歌手やバンドは枚挙にいとまがない。なぜそこまで彼は求められるのか? その音楽的な手腕や知識、あるいはネーム・ヴァリューも、要因として挙げられるだろう。けれど個人的には、その楽しい性格が音楽制作においておそらく重宝されているのではないかと考える。スタジオでミュージシャンが、これ以上はないだろうというような良い演奏をしたとき、ブースの外でそれを見守っていた亀田が(脈絡なく)踊り出したという逸話もある。本来的にはパリピな人なのかもしれない。

とはいえ、亀田も最初から敏腕プロデューサーだったわけでは(当然)ない。前世紀末葉における彼は、プロデューサーあるいは編曲家としてはほぼ実績のない、しがない若手ベーシストであった。1999年に槇原敬之が覚醒剤所持で逮捕され、同年に予定されていた彼のコンサート・ツアーは全日程が白紙になったわけだが、亀田はそのツアーにベーシストとして参加するはずだった。亀田は後年、そう述懐している。

ベーシストとしての亀田はいかなるものか? 私はベースを弾いたことがないのでよく分からない。ただ、昔コンビニでバイトをしていた時代、本社に所属していたチーフがベース経験者で、彼は亀田誠治を師と仰いでいた。チーフも彼の奥さんも共に元バンドマンで、そんな話の流れから、ベーシストとしての亀田誠治がいかに凄いかを、目の色を変えて力説していた。それを今でもよく覚えている。だから私は、亀田は凄いベーシストなんだろうなと思っている。そう言っておいて、そのチーフの名前は失念してしまったのだけど。

話を1990年代末に戻すと、亀田はそういうポジションにいた。そしてその亀田を「敏腕プロデューサー」へし上げたのは間違いなく椎名林檎である。1998年にメジャー・デビューした彼女は、前世紀末にヒットし、その編曲を手掛けていた亀田に世間は注目した。2000年代に入ると、ドゥ・アズ・インフィニティを筆頭にプロデュースの依頼がどんどん亀田に舞い込んだ。たとえば、ラルクアンシエルは2000年に『リアル』というアルバムを出したわけだが、その中の1曲に、亀田はプロデューサー兼アレンジャーとして参加していたりする。


上述のように、私には椎名林檎の魅力がよく分からない。だからと言って彼女の音楽を悪く言うつもりとて毛頭ない。それに、椎名林檎と本作のヒットがなければ、おそらく21世紀の亀田誠治は存在しなかった。彼のキャリアも、日本のポップス史も、多かれ少なかれ、違う様相を呈したはずである。具体的にどう違っていたか? そこまでは分からない。ただ、違うものになっていたと想像するばかりである。だからこうも考える。椎名林檎の本質は、ともすれば「他人ひとを立てる人」なのかもしれないな━━と。


椎名林檎 公式サイト





 

『delicious way』
倉木麻衣は「2000年という年」を象徴したか?

『3rd -LOVEパラダイス-』
モーニング娘。が継承した「森高千里」