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『スプーキー・ホテル』
そんなに悪くないはずなんだけどな

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こんにちは皆さん。本日のお題は大江千里さん(1960-)が2013年に発表した『スプーキー・ホテル』です。

大江千里さんと言うと、「えっ、あの『格好悪いふられ方』の大江千里?」と思う方もおられるかも知れません。はい、そうです。あの大江千里さんです。あまり知られていないかも知れませんが、実は今、彼はアメリカに移住して、ジャズ・ピアニストとして活躍しているんです。

何を言っているのかわかんない━━という方もおられるでしょうから、ご説明します。実は大江さんは、もともとは「ポピュラー音楽の人」だったんです。1983年にシンガーソングライターとしてメジャー・デビューし、いくつかのヒットにも恵まれました。先日、覚醒剤所持で逮捕された槇原敬之さんは、大江さんの楽曲から多大な影響を受けたそうで、大江さんの「レイン」という曲を2度にわたってカヴァーしています。


『スプーキー・ホテル』
2013年9月6日発売

VILLAGE MUSIC

01. The Adventure of Uncle Senri
02. Love Strictly
03. Lexington Avenue 3AM
04. Swab Family
05. Spooky Smile
06. April 25th Hotel
07. House Keeping
08. Intellectual Lover
09. Room Hydrangea
10. Dear My Old Love
11. Sweet Home Hotel

[DVD]
1. Spooky Hotel Recording
2. Sweet Home Hotel@Tomi Jazz

さて、そうは言ったものの、私は「ポピュラー歌手としての大江千里」を全く知りません。彼がデビューしたのは私が生まれる前ですし、彼がヒット歌手として活躍した時代には、まだ物心がついていなかった。歌番組の「昔を振り返る」コーナーでも、彼の曲は特にかかっていなかった(と思います)し。

だから大江さんは、私にとって「ジャズの人」なんですよね。ポップスの歌手をやっていた前歴があると言われても、そりゃそういうこともあるだろうさ、みたいな感じで。

話を大江さんに戻しますと、2007年、彼はポビュラー音楽の世界から足を洗う決意をします。なぜ、と問われれば、そこには様々な理由があったはずですが、その一つを挙げるとすれば「次のステージに移るときが来た」でしょうか。

2007年━━そのずっと前から本人的にはスランプ気味というか、袋小路に入り込んでいたようなのです。もうポピュラー歌手としてのキャリアはいいんじゃないか。そういった想いが本人にはあって、そして、昔からなりたかったジャズ・ピアニストになるべく、アメリカへ移住し、ジャズの勉強に励んだ、ということらしいです。

なんとなくわかりますよね。マッキーが影響を受けたというくらいですから、大江さんの歌にはラヴソングが多かった。聴衆の中には「大江千里のラヴソングこそ本当のラヴソングだ」と言う方だって多いかと思います。それはそれでいいのですが、普通、男が40代にもなって、若々しいラヴソングを書かねばならない、唄い続けなくてはいけないというのは、ある種の苦行に近いのではないかと思います。私だったら「もうそういう歳じゃないんだけどな」とブーたれてしまうかも知れない。

もちろん、恋愛は歳でするものじゃありません。いくつになったって恋をする段においては変わらない、そういう心性だってあると思います。でも、20代の恋と40代の恋は、やっぱり「同じ」ではないでしょう。石川さゆりが「天城越え」や「津軽海峡・冬景色」を唄い続けているように、ポピュラー歌手はヒット曲を唄い続けなくてはいけない稼業で、それが20代や30代、つまり若かりし日のラヴソングだったら、当人としては「今の自分」との間に齟齬を感じてしまうんじゃないでしょうかね。楽曲提供を受ける歌手ならともかく、シンガーソングライターには、そういうこともあるんじゃないかなと。

で、彼は2007年以降、勉学と修練に励み、2012年にジャズ・ピアニストとしてカムバックします。お題の『スプーキー・ホテル』は、ジャズマンとしての彼の2枚目のアルバムで、これ以降も彼はコンスタントにジャズ・アルバムを出し続けています。

「どうして今作を?」と訊かれれば、今作は、彼のジャズ・アルバムで唯一、オリコン週間チャート100位以内に入らなかった盤なんですよね。そんなに悪くないはずなんだけどな、というところで、今回お題に揚げた次第です。



大江千里 | ソニーミュージック オフィシャルサイト






 

『スプリング・イズ・ヒア』
小曽根真の初のスタンダード集、らしいけど

『タッチズ&ヴェルヴェッツ』
南博と菊地成孔の「1950年代のニューヨーク」