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『Journey without a map Ⅱ』
「TAKUROそのもの」かも知れないもの

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「もうすぐ平成が終わる」━━世間にはそんな空気が漂っていました。天皇が譲位して元号が変わるっていうけど次の元号はなんだろう、とか。2019年2月のことです。その月、GLAYのリーダーでありメイン作曲家でありギタリストでもあるTAKUROは、自身のソロ・アルバム第二弾を発表します。『ジャーニー・ウィズアウト・ア・マップⅡ』。アナログ盤とCD盤、それにDVD付CDの3タイプで販売されました。

Journey without a map Ⅱ

2019年2月27日発売

Pony Canyon

01. SOUL FRIENDLY
02. DANDY MAN
03. TM St.2am
04. SARAH 派手にやれ!
05. TIMELESS WONDER
06. 北夜色 Port Town Blues
07. do svidaniya
08. 鼓動
09. やすらぎのチセ
10. Swingin’ Tokyo 2020

【DVD収録内容】
・「やすらぎのチセ」MUSIC VIDEO
・Journey without a map Ⅱ
 Documentary & Interview


プロデュース:松本孝弘
作曲:TAKURO (Except #6)
作曲:松本孝弘 (on #6)




GLAYは1994年にメジャー・デビューした、函館出身の4人組ロック・バンドで、TAKUROはGLAYのほとんどの曲の作詞、作曲を手掛けてきました。ロック界のギタリストが、その成長過程でジャズやフュージョンの世界に足を踏み入れる。これは別に珍しいことではありません。松本孝弘が好個の例で、彼が2010年にラリー・カールトンと組んで出したアルバムが、翌春のグラミー賞を受賞したことをご記憶の方もおられるでしょう。

その松本は、今作のプロデューサーを務めています。2016年に発表された第一弾でも彼はプロデューサーの立場にありましたが、そのときは活動を全体的にサポート、監督する立場に終始していました。今作では、それに加えて「北夜色ポート・タウン・ブルーズ」という曲を提供してもいます。この曲は、松本が自分なりに函館という町をイメージして書いた曲なのだとか。

ただし、あくまでも主役はTAKUROです。彼のソロなのですから、それはそうです。では、ポップスの世界で長年活躍するギタリストが、なぜ最近になってこういう世界を提示するようになったのでしょうか?


あくまでも私見ですが、TAKUROという人は、本質的には「憧れを追いかける人」だと思います。彼は1971年生まれで、ということは、そのパーソナリティが実質的に形成、確立されたのは80年代でしょう。東京がバブルに突入しようかという時代です。もっとも、バブルは地域によって訪れる時期がまちまちでした。全国一斉に、同時にバブルに突入したわけではない。彼が育ち、GLAYを結成した函館ではどうだったか? 恐らくその時代の函館にはまだ貧しさが残っていて、それでもいろいろな面で豊かさが全体的に浸透してきた、という感じではなかったかと推測します。つまり、当時の東京のように「豊かさが余っている」状態ではなかったんじゃないかな、と。

とはいえ、テレビや雑誌などのマス・メディアを通じて、東京を中心としたバブルの喧騒は直接的に伝わってきます。彼はそれを空気のように毎日毎日吸い続け、心身共に育っていった。けれども自分達が暮らす函館にバブルはない。バブルの空気だけは瀰漫して、しかし現実は違う。だから「憧れる」━━それに近づきたいと欲望する。こういうエートスが、彼の人格のベースにあるのではないかと思います。人には「時代によって作られた側面」というのがあったりもするのです。

「おらこんな村ぁイヤだ」と言ったかどうかは知りませんが、GLAYは昭和が終わって間もなく、東京に出て来ます。そして90年代には経済的成功を手にする。もう函館の片隅でくすぶっていた俺達じゃないぜ━━ですが、そうはなっても「憧れる」がTAKUROの、あるいはGLAYの動力源なのですから、彼らには夢や目標が常に必要になる。たぶん、夢や憧れという燃料がないと彼らはうまく動けない。だからGLAYのステイトメントは、折に触れて、「夢を見ること」を(過剰に)強調してしまうのでしょう。

それでは、一度は成功を収めたはずのTAKUROは、何に憧れたのでしょうか? デイヴ・ギルモアに代表されるギタリスト達です。バンドもやるけれどソロもやる。そこでブルーズやフュージョン的な世界観を楽器を通じて鮮やかに提示し、称賛される。そういうギタリストにTAKUROは憧れます。

ある日、彼はその憧れを━━「いつかああいうギタリストになりたいんですよね」的な願望を━━旧知の仲の松本に話します。彼らは1999年にNHKの特番で対談して以来、親交を深めてきた間柄だそうで、松本は彼より10歳年上にあたります。当然それだけギタリストとしてのキャリアも豊富です。その松本は、彼の胸の内を聞いて「いつかじゃなくて今やろうよ」と助言します。近しい先輩にそう言われた彼は「じゃあ松本さん、プロデュースして下さい」と返す。かくして、松本の監督下で彼はソロ活動をするに至るのです。

それがどうして「地図のない旅」になるのか? それはTAKUROという人には「ああなりたい」という憧れはあっても、全体を把握する視座がないからでしょう。少なくとも音楽制作面ではそうだと思います。だからソロ活動でもGLAYでも、プロデューサーを立てて活動したがる。誰か俺(達)を監督していてくれと望む。本人的には「こうしたい、こういう方向がいい」と方角を指し示すコンパスはある、でも全体を俯瞰するような地図はない、ということなのかも知れません。

つまり「ジャーニー・ウィズアウト・ア・マップ」というイディオムは、もしかすると「TAKUROそのもの」を表しているのかも知れないんですよね。今作のジャケット絵は、松本がTAKUROにプレゼントした、TAKUROの妻の肖像画です。


GLAY公式サイト




 

『デリシャス3』
よくぞこのセッションを実現してくださいました