便宜上のことでしょうが、近代を平成以前・以後に分けるやり方をよく見かけますよね。いわく、古き良き昔は昭和時代までであり、平成に入ってからはうんたらかんたら、というようなたぐいです。そんなに昭和が良かったか、というとどうでしょうとか、そういう問題ではありません。
私個人の実感ですが、平成に入ってからもしばらくは、昭和のタイム感というのが存在していたと思います。あの、のんびりした、寛容なのかいいかげんなのか分からない空気が。だってそんな空気を、ドリカムことドリームズ・カム・トゥルーが1992年に発表した、彼らの五枚目のアルバム、『ザ・スウィンギング・スター』に感じるんですから。
このアルバム、もちろん当時のヒット・シングル「決戦は金曜日」などを擁していることもあるんですが、とにかくすごく売れたんです。当時は、まだまだメガ・ヒットといっても、アルバムが何百万枚売れるとか、いわゆる音楽バブルな感じではありませんでした。ちょうど音楽業界が、「沸きはじめた」ころだったでしょうか。
そんな中、『ザ・スウィンギング・スター』は、なんと当時の国内アルバムの歴代最高売上をマークします。発売一ヵ月半で、出荷枚数は300万枚を突破。これはドリカム史上最高の売上でもあります。
その要因は、「流行だったから」というのだけではないでしょう。ありとあらゆる楽曲・歌詞が、同じ時代を生きる男女に向けて、的確に放たれており、ヴォーカルや演奏、アレンジメントのクオリティも、「ポップ・バンド」として申し分がないところまで来ています。
ドリカムがデビューしたばかりの頃、ヴォーカルの吉田美和さんは、「自分たちの音楽を説明しなきゃならないときに、永遠のポップスです、って言ってる。いつまでも残るような曲を作っていきたいから」と語っていました。それは、絵空ごとで終わらなかったのです。
昭和のタイム感は、地域によって若干の差はあるでしょうが、おそらくパソコンや携帯電話が急速に普及し、インターネットが身近になったころ、つまり2000年前後に、情報化社会の到来と共に失われたと思われます。二度と帰らないあの空気。それは、どんな写真によっても、どんな映像によっても、取り戻しようがないのです。
ですが音楽は、空気をふるわせ伝う、一種の振動です。あのころ鳴らした音を封じ込め、なおかつ「ひとつの時代」を築くまでに浸透していた音楽は、あの時代の空気を、どんな媒体よりも正しくパッケージしていると言えましょう。そしてそれが同時に「永遠のポップス」であるなんて、なんとすばらしいことなのでしょうか。