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『ah-面白かった』
吉田拓郎が面白がったもの

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『ah-面白かった』(CD+DVD版)

2022年6月29日発売
avex trax

01. ショルダーバッグの秘密
02. 君のdestination
03. Contrast
04. アウトロ
05. ひとりgo to
06. 雨の中で歌った
07. 雪さよなら
08. Together
09. ah-面白かった


全作詞・作曲:吉田拓郎
吉田拓郎。その名前を口にすることなく1970年代の日本の大衆音楽を語ることは、なかなかの困難であろう。それくらい、時代にその名前をがっちりと刻んだ歌手でありミュージシャンである。その吉田が2022年、自身最後のスタジオ・アルバムという名目で出したのが、『ah-面白かった』である。

本作のリリースは、2022年6月29日。吉田の最後のアルバムということもあってか、初週で約4・6万枚を売り上げ、オリコンのアルバム・ランキングでウィークリー2位に就くという好成績を残した。

仕様は、CDのみの「通常版」に加え、メイキング映像やインタヴュー映像を収録したDVD付きの「CD+DVD版」の2種類。また同年8月にはLPレコード版も発売され、こちらのブックレットには、吉田が叙したエッセイが収められている。いずれのヴァージョンでも収録曲に違いはない。

本作の楽曲は全部、作詞と作曲は吉田が担当。アレンジメント(編曲)は、彼がツアーで組んでいたバンドのギタリストを務めていた鳥山雄司がほとんど。1曲だけ、吉田と交流のあった堂本剛(キンキ・キッズ)と、堂本がよく組むアレンジャーの十川ともじが、共同名義で編曲を担当している。また、1曲目「ショルダーバッグの秘密」では、同じく吉田がツアーに帯同していた鍵盤奏者の武部聡志も、編曲者として名を連ねている。

鳥山雄司、十川ともじ、武部聡志━━いずれも現在では「大御所」と言われておかしくないアレンジャーである。キンキ・キッズだって、ジャニーズ系アイドルの中ではヴェテランのポジションにあろう。しかしそんな彼らも、吉田の前においては「まだ若い」になってしまう。1946年に生まれ、1970年にデビューした吉田拓郎とは、そういう重鎮でもある。

その重鎮が引退する。もともと2019年のツアーで彼は、自分がツアーを回るのはこれが最後だと表明していた。コンサート・ツアーはもう行なわない。である以上、音楽制作にもどこかでなんらかの区切りをつけるべきと考えたのだろう。かくして、「吉田拓郎の最後の作品」を命題に、2021年から本作の楽曲達は制作され始める。

とはいえ、1980年代生まれの私には、吉田拓郎という存在が今一つピンとこない。吉田拓郎とは何者なのか?

一般的に吉田は「日本のフォーク・ブームを牽引した」と語られる。もちろん吉田がデビューする前からフォーク音楽(アコースティック・ギターをかき鳴らしながら唄うスタイル)はあったのだが、唄われる内容が決定的に違った。1960年代の日本のフォーク・ムーヴメントを牽引したのは主に関西出身のミュージシャンで、彼らの曲には笑いと政治的メッセージが濃厚だった。しかし、1970年代に入ってからのフォーク楽曲は、笑いや政治性を希薄にし、代わりに「叙情性」や「個人性」を唄った。そういう方向でポピュラリティを獲得したフォーク歌手が吉田拓郎だった。

フォークは叙情性や個人的なあれこれを唄うようになり、歌謡曲に接近する。やがてフォークは「Jポップ」の形式のひとつでしかなくなるのだが、それはそれとして、吉田は、自身が「フォーク・シンガー」と位置づけられることに違和感を持っていたという。ビートルズに強く影響を受けた彼が重視したのは「バンド」だった。そこで唄われるのが「個人的なこと」ではあっても、彼が固執していたのは飽くまで集団作業であり、他人との関係なのである。

本作には、上述のように吉田のツアー・メンバーだった鳥山雄司や武部聡志、あるいはテレビ番組で親睦を深めた堂本剛が参加している。ジャケットの文字は堂本の相方である堂本光一が書いたものだし、収録曲の中には吉田と同年にバンド「オフ・コース」でデビューした(つまり吉田と同時代を生きてきた)小田和正が参加した曲もある。

「孤高のフォーク・シンガー」と目されがちな吉田拓郎ではあるが、おそらく彼は、自分の色が前面に出たアルバムなどを最後の作品とはしたくなかったのだろう。自分(吉田)はこれまで多くの人と様々な形で関わり合い、その中で音楽をつくって生きてきた。それなら自分の最後の作品には、その関係性をなんらかの形で表しておきたい。本作を制作するにあたり念頭にあったのはそういう意向で、だからタイトルは「ah-面白かった」なのかなと推察する。

だって、独りきりでは何も(あんまり)面白くないでしょうからね。


吉田拓郎|エイベックス・オフィシャルサイト





 

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