戦後の日本の筆入れ、筆箱を語る上でハズしてはならないヒット商品といえば、1965年にサンスター文具が発売開始した「アーム筆入」でしょう。当時、「ゾウが踏んでも壊れない」のキャッチ・コピーで一世を風靡しまくったこの筆入、ポリカーボネイトで作られていて、なんと1.5トンの荷重にも耐性を誇るというものでした。つまりこの筆入をフトコロに忍ばせておけば、ヒットマンに狙撃されても大丈夫!(かもしれません)
「アーム筆入」があらわれるまでは、筆入といえば、燃えやすいセルロイド製か、落としたらすぐ壊れるようなプラスチック製の商品が大半でした。そこでサンスター文具は考えました。「壊れにくく、かつ燃えにくい素材で筆入を作れないものか」と。そこで目を付けたのが、1960年代に入って産業活用され始めていた新素材、ポリカーボネイトでした。
ここで凡人が考えてしまいそうなことがあります。それは、「いや、丈夫なのは結構よ。ただ、そうすると頻繁には買い換えてくれないから、売れ行きが最初は良くてもすぐにどん詰まりになるんじゃない?」ということ。実際、当時のサンスター文具内でもそれは危惧されましたが、企画は何とか通ったそうです。
ヒットの仕掛けとして、「ゾウが踏んでも壊れない」をTVCMで再現しましたが、これを見た当時の子供たちは、「マジかよ」とばかりに、二階から「アーム筆入」を落とすなどの様々な耐久テストを施すために、軒並み購入(似たようなことが「G-ショック」でもありましたね)。もはや文具本来の目的を外れたところで、大ヒットとなりました。
さて、世紀末に発売された「アーム筆入」の最新モデル、「NEWアーム筆入」ですが、もちろん耐久性はそのまま。現代は昔と違って、長持ちする筆入れを使った方が経済的だという理由から使われることが多いそうです。