2011年3月11日は、通称「東日本大震災」が起きた日である。その日の昼過ぎ、東北地方沖を震源地とする震度7前後の大規模な地震が発生。地震、及びそれに伴う大津波や火災などにより、1万8千以上ともいわれる数の死者と行方不明者が生じた。また、この天災に端を発して、福島県の原子力発電所ではメルトダウンが起き、その危険性から多くの住民が住処を追われた。つまり東日本大震災とは、成り行き上不可避な「天災」と、ともすれば回避できた(=発生せずに済んだ)かもしれない「人災」の、2種類の惨禍を含んだカタストロフィーなのである。
この震災以降、東日本では人々の間で防災意識の高まりが見られた。もしかしたらそれは一時的な現象だったかもしれない。ともあれ、いつか訪れるだろう災害に備えようという人が(震災以前と比べて)ぐんと増えた。というところで、これまでに各種自衛隊や東京都庁河川部防災課など多くの公的機関に納入されてきた防災用懐中電灯「ナイトスターJP」を、今回は取り上げる。
東京の大作商事による「ナイトスターJP」は、その名も「防災用」懐中電灯であるからして、通常のそれとは異なる。何が違うか? 衝撃に強いとか防水加工してあるとか、いろいろあるが、最大の違いは、乾電池もメンテナンスも要らないという点であろう。じゃあどうやって点灯するのか? ただ30秒くらい振ればいいのである。それでおよそ20分間あかりがつくと。
しゃかしゃか振るだけで電気が点く。それはどういう仕組みかというと、筒の内部に磁石が入っていて、振るとその磁石が筒の先端からもう一方の先端へと行ったり来たりする。この往復をある程度繰り返すことで、筒の内部に磁力が生じ、それが発電に至るという理窟らしい。
なるほど、これは便利だ。そう思われるかも知れない。たしかに、乾電池式のノーマルな懐中電灯では、いざ停電が起きた時に限って役に立たないことが、なきにしもあらずである。
「うわ、電池がない!」
「ええっ、なんで用意しておかなかったのよ!」
「してたよ! してたけど、その電池が期限切れなんだよ!」
「役立たず!」
「なんだと、このBCG女!」
「はぁ? なに、こんな時にセクハラ?」
というような修羅場もあり得るかもしれない。考えただけで身が竦む思いで気が重くなる。そういう方も多くおられると思う。お気持ちお察しいたします。察してどうなるものでもありませんが。
じゃあこの「ナイトスターJP」を買って置いとけば安心だな。そう思われる方もおられるであろうし、ある場合にはその通りかもしれない。しかし管見を言わせて頂ければ、私は「ナイトスターJP」は、事務所や会社などでの備えにはいいと思うが、個人宅での防災にはちょっと向かないんじゃないかと愚考している。どういうことか。以下、そのあたりを述べる。
まず私宅で懐中電灯を置くとなった場合、どこに置くだろうか。大きく分けて2パターンあると思う。家屋(自室)のどこかの引き出しに収納するか、防災グッズを詰めたリュックに入れておくか。だいたいはこのどちらかに落ち着くと思う。
この「ナイトスターJP」の要は(上述のように)磁石である。それは取りも直さず、磁気NGのグッズ━━たとえば磁気カード(ガソリンスタンドの会員カードやキャッシュカードなど)とかを傍に置いてはいけない、ということである。磁気が使用不能になる恐れがあるからである。そうなると、引き出しやリュックに常備しておくには若干不向きではないか。かように考える。
特に防災リュックには向かないだろう。防災リュックには、その定義上、災害時に備えたいろいろなものが詰められる。そこには高確率でクレジットカードやキャッシュカードが収納される。災害をしのいだ後、お金は何かと入り用になる。しかし「ナイトスターJP」が傍に収められていると、そのカード類が使用不能になりかねない。それを演じるのが妻夫木聡ならコメディとして成立するかもしれないが、一般の身にはただのナンセンスである。
そういう点に気を付ければ、充分に有用だろうとは思うのだけど。