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■ 7月31日から8月30日にかけて、「エッセイ」をフィーチャーします。







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SATOLIの革小物
松阪牛の皮革を使った革小物

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個人的に、松阪牛にはいささか苦い思い出がある。ただし、それはあくまでも個人的な話なので、今は本題の「SATOLI(さとり)」の話を進めたい。

冒頭で「松阪牛」という名称を出したことからもご賢察のとおり、さとりとは松阪牛の皮革を使った革小物(財布やベルトなど)のブランドである。昭和が始まって間もない1930年に東京で創業した株式会社バンビが展開しているブランドのひとつである。



バンビは、腕時計のベルトのメーカーとして長年かなりの国内シェアを誇ってきた。その技術力と伝統を活かす形で、2006年から革小物の製造・販売を始めたわけだが、その背景にはおそらく「今まで通り時計のベルトを商うだけではジリ貧になる」という切迫感も、それなりにあったろうと推察する。ゼロ年代後半というのは、日本で人口減少が始まる時期でもあったから。

バンビの略歴はともかくとして、私も含めて一般の人にとっては、まず松阪牛が遠い存在だと思う。それがブランド牛であることは知っている。でも、肉として食べることはあっても、個体としての牛と実際に関わる機会は、そうそうないはずである。読み方だって「まつざかぎゅう」なのか「まつさかぎゅう」なのか「まつさかうし」なのか、分かりにくいし。

松阪牛の読み方に関しては、私は「読みたいように読んだらええやん。相手に通じるんやったら問題ないやろ」と思っている。乱暴な意見かも知れないが、私が生まれた茨木市だって、「いばらぎ」と読もうが「いばらき」と読もうが別にどっちでもいいと思うのだからしょうがない。

話がずれている。

要するに、一般の人の多くにとって、松阪牛は「食用肉の一ブランド」でしかないということである。つまり、多くの人は「松阪牛の皮革を革小物に使ったからって、それが何か特別なことなのか?」と、革の特性にも、その用途にも今ひとつピンとこないのではないかと。私はそう愚考する。

松阪牛は食用に育てられた和牛である。牛肉のセールス・ポイントのひとつは脂身の多さでもあるから、ビジネス的な帰結として、松阪牛は脂をできるだけ多く含むように品種改良されていく。家畜のあり方ゆえ、それは仕方がない。しかし脂が多めの革というのは加工するのが難しいらしく、従前は捨てるしかなかったのだとか。それが近年、脂をうまいこと取り除く技術ができたため、加工するに至れたのだという。



さて、イヤな話であるが、ブランド牛には「偽装」や「詐称」の疑いが、半ば宿命的に付きまとう。

2013年10月、阪急阪神ホテルズが、芝エビと表示していながら実際にはバナメイエビを供していた旨を発表した。それから間もなく、高島屋や小田急百貨店などの大手百貨店、食品メーカーが、食材やメニューにおける偽装を、次々とカミングアウト。一時は謝罪会見ラッシュであった。阪急阪神ホテルズの当時の社長、出崎弘は「社員の認識不足が原因」であり「偽装ではなく誤表示」だと会見。この釈明は、トップによる現場従業員の切り捨てじゃないかということで、火にガソリンを注ぐ結果となった。

記憶に新しいところでは、2022年初頭の、熊本産アサリの偽装問題だろうか。農林水産省が、2021年10月から12月末までに販売されていた熊本県産とされるアサリのサンプルをDNA分析した。結果、31点のうち30点が、中国や韓国など外国産のものである可能性が高いと判定されたという。

いずれの事件に関しても、この稿では論じない。とても収拾がつかなくなる。ただ、真っ当な生産者や商売人にしてみれば、世間を賑わせたいくつかの事例のせいで、自分達がやっている仕事にまで疑惑の目を向けられるのは甚だ心外である。だから、さとりブランドの小物には個体識別番号が付いている。血統登録されている牛には、いずれも個体識別番号が与えられており、家畜改良センターのサイトでその番号を入力すると、その小物に使われた牛の個体情報が手に入る。いわゆるトレーサビリティーというやつである。

彼らの努力には敬意を払う。しかし一方で、ただしっかりした財布やベルトであるだけでは信用に足りないとされるのだとしたら、なんとも面倒くさい時代になったものである。そう思わないでもない。


会社情報

・社名:株式会社バンビ
・住所:〒110-0016 東京都台東区台東4-32-1
・創業:1930年





 

小田原鋳物の風鈴
その音色は、果敢無くも明媚なりけり