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■ 3月31日から4月29日にかけて、時計をフィーチャーいたします。







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SUSギャラリーのビールカップ
新潟発、チタン製の酒器

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日本が優れた「ものづくり」を誇っていたのも今は昔。せいぜい二十一世紀初頭くらいまでだろう。今では中国を初めとするアジア諸国の技術水準も総じて上がっているし、日本企業が海外に製造拠点を持つことも珍しくなくなった。つまり昨今の世界において日本の優位性は最早なく、日本の「ものづくり」はとうに自慢のタネではなくなっている。こういう風に思っている人は結構多いのではないだろうか。

SUSギャラリー
ビールカップ

色:ミラー
容量:400 cc
価格:税込27,500円
確かに、たとえば電機産業などでは、日本はもうリーディング・ポジションにないと言っていいだろう。だいたい今の大手電機メーカーのエンジニアって、高性能のコンピューターがないと商品を作れない観があるし(だから人工知能やロボットに職を奪われるなどと思っているのかもしれない、よく分からないが)。ただ、ハイテク産業や難儀な加工を伴う仕事では、日本の存在感はまだまだあると思う。という所で、表題に掲げたSUSギャラリーのビールカップである。

見ただけではピンとこないかもしれないが、このカップはチタン製である。

SUSギャラリーとは、簡単に言えば、チタン製の食器や酒器を商う新潟発のブランドである。江戸時代からこっち、新潟が「金属加工の町」として栄えてきたことは有名であろう(その歴史をダイジェストで説明するなどは、もう他の記事でやったので、ここで繰り返しはしない)。かの地では、金属加工に関するさまざまな技術が脈々と培われてきたのであり、それなら、金属の一種であるチタンの加工にも、一日の長があるというわけ。

SUSギャラリー
ビールカップ

色:セピア
容量:400 cc
価格:税込34,100円
チタンの加工は難しいのか? 私は金属加工業に携わったことがないのでよく分からないが、話を聞くと存外に難しいらしい。

日本の他にチタンの加工技術を有する国には、アメリカ、ロシア、中国などがある。ただし、これらの国におけるチタンの主な用途は、軍事目的だという。なるほど。確かにチタンは、同じ金属でも鉄よりは軽いし、ステンレスやアルミニウムよりも耐食性があるから、航空機や潜水艦などの材料に適していると言っていいだろう。

こうした状況を考えると、わざわざチタンを使ってビールカップを作るのは、世界的になかなか珍妙というか、酔狂なのかもしれない。「え、ビールを飲むためだけのコップを、チタンで作るの? ホワイ?」みたいな。

断っておくが、私は何も「日用品より軍事用品の方が重要だし価値がある」と言うつもりはない。そういう風に考える人はいるかもしれないし、いてもそうおかしくないとは思う。しかし私はそうは考えない。日用品で何が悪い? 軍隊や自衛隊の構成員だって、私達一般人と同じように「フツーの日常生活」に立脚しているはずではないか。それに二十一世紀の世界においては、「国同士が表立って敵対する」が時代遅れになりつつある気もする。それなら、軍隊の重要性だって前世紀よりは無くなるだろう━━時代の趨勢として。

とはいえ、である。ビールを飲むための酒器がチタン製である必然はあるかと問われれば、これはもう「特にない」と答えるしかないだろう。

日本の一般的な酒飲みが普段ビールを飲むときに用いるのは、多くはガラスのコップであると思う。透明なグラスに冷えた麦酒をとくとく注ぐ。瞬間、注がれた黄金色の液体は炭酸をしゅわしゅわと言わせて、ビールの上には白い泡のかたまりが見る見るうちに冠せられる。飲む者は蠱惑的に誘われる。早く飲まないと「気」が抜けちまうぞ、というメッセージと共に。乾杯。取るものも取りあえずグラスに口をつける。いくばくかの苦みを伴い、ビールは口から喉へ一気呵成に淀みなくごくごく流れて行く。ぷはーっ。こうした一連の儀式的な流れは、依然として多くの日本人に共有されていると思う。そこに善悪や優劣などのイデオロギーは恐らくない。どこまでも自然かつ自明的なものとして、私達の多くはこの流れを一夜また一夜と繰り返す。つまり「ガラスのコップで何が悪い?」である。

ビールを飲むためのコップがガラスで問題ない以上、チタン製のそれが日本のマーケットで支配的な位置に就くのは、絶望的に難しいと言うほかない。換言すれば、SUSギャラリーのビールカップは飽くまで「趣味的なアイテム」の域にあるということである(だから値が張る)。

たまには変わった酒器でビールを飲んでみたいな。気紛れにそう思う酒飲みは古今東西それなりにいるだろう。そういう人への贈答品に向いたビールカップなのかなと思っている。


SUSgallery【サスギャラリー】公式サイト





 

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