火焔型土器、
遮光器土偶と来て、形象
埴輪である。年代が古い順に並べたわけであるが、この並びで見ると、形象埴輪の特異が際立つ。そう、埴輪には邪気がない。どことなく可愛い。そう思われないだろうか。それまでの時代に作られてきた土器や土偶と比べ、どこか「やわらかい」印象を受ける。
男子胡坐像
群馬県高崎市八幡原町出土
天理大学蔵
出典:群馬県高崎市八幡原町出土
盛装男子埴輪.JPG
from the Japanese Wikipedia
(2016年11月27日撮影)
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埴輪は大別すると二種類ある。土管やパイプみたいな円筒埴輪と、動物や家を象ったとされる形象埴輪。いずれも古墳時代、3世紀後半から6世紀後半頃に作られたと言われている。円筒埴輪のほうは、正直「まぁ粘土細工だよな」である。私の頭の乱暴さゆえであろうか。もっとも、埴輪の作り方は、粘土を紐状にして、それを積み上げたり組み立てたりして形を整えるか、または骨格を作り、その骨格に粘土をくっつけるかだという。それなら正に「粘土細工」ではないか。
一方、形象埴輪は、そのおおかたが可愛く思える。形象埴輪には、人を模した物ばかりではなく、当時の人間の家畜であったという馬や猿、ニワトリなどの埴輪もある。いずれも可愛い。こんなんなら、一体くらい家に飾っておいてもいいよなぁ。そう思う人もいるのではないか。それくらい可愛い。
当今、日本語の「カワイイ」は外国でも通じる。そういう人がいる。嘘か本当かは知らない。ただ、その日本の「カワイイ」の原点は埴輪ではないか。そう思うくらい、埴輪はプリティーかつキュートである。
ふと思う。宮崎駿監督の『もののけ姫』に出てくるコダマって、形象埴輪なのではないか。コダマもやはり「カワイイ」に属するであろうし。昔、コダマのぬいぐるみを妹が持っていた。女の子が所有したがるのは、やはりそれが可愛いからであろう。
何を言っているのか? 私は、形象埴輪の多くは、女性向けに作られたのではないか、ということを言っているのである。
埴輪馬
埼玉県熊谷市上中条日向島出土
東京国立博物館蔵
出典:埼玉県熊谷市上中条日向島出土 埴輪 馬-2.JPG
from the Japanese Wikipedia
(2018年5月26日撮影)
埴輪が作られた古墳時代とはどういう時代か。簡単に言えば、身分制度が盤石になった、階級社会の成立した時代である。学説はそう言う。そこでは古代国家が成立し、仏教の伝来などもあった。それに伴って、権力者のための大規模な墓が築造されるようになる。その大きな墓を古墳という。だから古墳時代と呼ばれる。埴輪はその古墳の装飾品の一種であるらしい。
当時の権力者とは、いわば「家長」である。クニや集落を一つの家と見做し、そこの長、つまり家長が権力を掌握した。だから国家という言葉には「家」が含まれる。今でも地方によっては、町の長老達に「あ、おとうさん、どうも」とか「おかあさん、お若いですね」などという。実際には血が繋がっていないのに。それはこの時代からの風習であろう。ちなみに天皇制では天皇が国民の家長にあたり、天皇制が実質的に確立したのは古墳時代とも言われている。
明治以降は男しか天皇に就けなくなった。つまり「皇族であっても女性は天皇にはなれへんで」となったわけである。しかし、明治以前には、女性の天皇、つまり女帝は何人もいた。推古天皇しかり、持統天皇しかり。それなら、古墳時代に女帝(それが天皇だったかどうかはともかくとして)がいても、なんら不思議ではない。
家形埴輪
大阪府八尾市美園古墳出土
文化庁蔵
出典:美園遺跡出土 家形埴輪.JPG
from the Japanese Wikipedia
(2016年6月5日撮影)
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女帝はいて、しかし彼女とていつかは死ぬ。彼女は家長でもあったのだから、その墓には家を模した埴輪も飾られる。船を象った埴輪もある。「三途の川」信仰が当時にもあったのかもしれない。それらと共に、彼女の「子供」や「孫」━━それは実際には平民を指す━━を象った埴輪も置かれた。女性は本来的に「可愛いもの」を好む。それは古墳時代も現代も変わらない。形象埴輪と
火焔型土器。どちらを好む女性が多いかは、言うまでもなかろう。だから彼女達の葬送の際に埴輪は用いられたと、私は考える。
その証拠に(というか)埴輪は、古墳時代末期を境に、関東の一部を除いて、ほぼ作られなくなったという。私はそれを、権力者に男性が多くなったためと疑う。男の墓に可愛い埴輪は似合わない。刀とか鏡とか、もっと勇ましい物、神々しい物を置け。男性の権力者の大半はそう言い残すのではないか。需要がなくなれば供給もなくなる。
私は歴史学や考古学の専門家ではない。古墳時代の権力者に女性はいなかったという証拠が、もしかしたらあるのかもしれない。そこまでは知らない。ただ私は、かような
椿説を思いついてしまうくらい、埴輪って可愛いですよね、と申し上げているだけである。
隣町の大阪府高槻市には、埴輪を作る体験教室みたいなものがあった。そんな記憶がある。よもや埴輪で
町興しでもあるまい。埴輪を作ってみたいと思う人がそれなりにいるのは、「土いじりが楽しいから」のみではなかろう。やはり埴輪の可愛さ、親しみやすさに惹きつけられるのではないか。