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エコドライヴ
How are you doing エコ?

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こんにちは。本日のお題は、日本の時計メーカーとして有名なシチズン時計社(二〇一六年まではシチズンホールディングス社)、そこの腕時計「エコドライヴ」です。なんとなく名前を聞いただけで「そういうのはちょっと」と敬遠したくなる人もいるかもしれませんが、ここは一つ、しばしお付き合いのほど宜しくお願いいたします。

どうして「敬遠したくなる人がいる」と思量するのかというと、エコという言葉には、環境保護のニオイが不可避的に付きまとうからですね。どんなデオドラントを用いても消臭しきれないこのニオイは、ある人には「キナくさい」とか「胡散くさい」と感じられたりもします。実際、環境保護を言い立てる人の語り口って、融通が利かなそうというか、剣呑な感じのものが多いですよね。語られるコンテンツの正否や論理的整合性がどうとかではなくて、語り口がなんだか「近寄りたくない感じ」がする。だから、エコと聞いて一歩二歩下がりたくなる人がいても、一向におかしくはありません。

でもエコドライヴに関していえば、そこまで張り詰めた「エコ」でもないように思います。順を追って説明してみましょう。

エコドライヴというのは、シチズンのブランドではありません。いや、確かに二〇二四年の現時点で、同社のラインナップに「エコドライヴ・ワン」というブランドはあります。ありますけども、本稿でいうエコドライヴはそれのみを指すものではない。エコドライヴとは、平たく言えば、同社の時計に組み込まれたソーラー充電機構のことなのです。多くの場合、腕時計は交換式の電池で動きます。電池が切れたら交換する。それが定石ですが、エコドライヴはその必要がない。太陽光なり蛍光灯なりの光を、腕時計のムーヴメント部分に暫時当てて充電させれば済む。その機構(システム)がエコドライヴなのです。



「フォルマ Eco-Drive」
メンズ
型番:FRD59-2484

シチズンがエコドライヴを初めて世に出したのは、前世紀末の一九九五年。ただし彼らは、それよりずっと前に光発電式のアナログ時計を発表しています。それがいつかというと、一九七六年。つまり同社が光発電式の時計を開発してから、およそ二十年間、エコドライヴは現れなかったことになります。これは奇妙といえば奇妙な話ではないでしょうか。

確かに、ソーラー発電式のアナログ時計ができたからといって、それを即、腕時計として、商品として運用できるとは限りません。腕時計として他人様からお金を取れるだけのクオリティーに至らせるには、多くの問題や障壁があったかもしれない。そこは分からなくもありません。しかしそれにしても約二十年というのは、インターヴァルとしてちと長すぎではないでしょうか?

ここから私は、次のように推測します。七〇~八〇年代には、ソーラー発電式の時計の需要がそんなに見込めなかった。しかし九〇年代に入ると、状況が変わる。少なくともシチズンが「ソーラー発電式の時計というのはマーケットにおいてアピール・ポイントになる」と判断を下すくらいにはなった。だから、九五年になって同社のソーラー発電式時計はようやく「エコドライヴ」という名を得たのではないでしょうか。確かに当時(九〇年代半ば)を思い返すと、ドラえもん型のソーラー・カー「ソラえもん号」が大々的にPRされていたりしました。九〇年代前半というのは、おそらく「ソーラー式=環境に優しい」みたいなコンセンサスが広く形成された時期だったのだと思います。

今では「ソーラーパネルだって環境破壊につながる粗大ごみだ」という知見も珍しくはなくなりました。だいたいソーラーパネルなんて、発電効率そんなに良くないですから。曇りや雨の日が続くと、ほんとうにただの粗大ごみでしかないですし。でも未だに前世紀末の「ソーラー式=環境に優しい」という図式を信じ込んでいる人は多いんでしょう。たとえば私が暮らす西日本でいえば、岡山県の錦海湾が好例です。錦海湾って、もともとは塩田だったみたいなんですけど、製塩業が衰退して、昭和末期に産廃処分場に転用されて、二〇一八年にはメガソーラーが湾一面に敷き詰められたエリアなんです。あの景色をエコと思う人が未だに多くいるんでしょうね。個人的には甚だしい自然破壊でしかないような気がするんですけど。

ということは、九〇年代半ばには、今よりももっと多くの人が「ソーラー式=環境に優しい」と信じて疑わなかったのでしょう。だからシチズンは、自社の時計に「エコドライヴ」と名付けて、それが商売になると見積もった。そうなんじゃないかなと私は邪推します。時代が流れ、ソーラー発電にネガティヴな評価が増えてきたからなのか、近年のエコドライヴは「電池を交換しない点がエコである」みたいな方向でアピールしていますけど。

って、こういうふうに言っていますけど、別にエコドライヴがダメだと言っているわけではありません。誤解しないでくださいね。腕時計としての良し悪しについてはまた別の話ですから。どうぞご自身でしっかりお試しの上、ご判断頂きたいと思います。







 

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頑丈な腕時計が刻んできた時間